がんのコラム

2020年3月27日

経営者に知ってほしいがんの知識 /第38回 多死社会がん社会

がん 健康管理

2018年の人口動態統計によると、日本における死亡数は前年より2万人以上多い約136万人(うちがん死亡は約38万人)と戦後最多でした。一方、出生数は過去最少の約92万人で、死亡数から出生数を引いた自然減は44万人超と、初めて40万人を突破しました。

東京の葛飾区や町田市、あるいは長崎市、高松市、富山市クラスの地方中核都市が消滅した計算です。

日本人の死亡数は2039年ごろにピークを迎え、今より30万人以上多い167万人に達する見込みです。団塊の世代が人生の幕を閉じる時期を迎えるためです。短期間でこれほど死亡数が増えるのは、戦争などを除くと、世界的にも珍しい現象です。

数年前、「死を忘れた日本人」(朝日出版)という本を出版したことがありますが、死を忘れるどころか、日本は「多死社会」を迎えることになります。ちなみにこの本は渾身の一冊でしたが、タイトルのせいか、あまり売れませんでした(涙)。

1950年代には8割以上の人が自宅で亡くなっていましたが、今や、病院で亡くなる人が8割を占めます。多死社会といっても、死が病院に隠蔽されてしまい、そのリアリティーが失われているといえるでしょう。自分自身の死を考える機会も少なくなったと思います。

小学生372人に、「死んだ人が生きかえることがあると思いますか?」と質問したところ、「ある」が34%、「ない」が34%、「分からない」が32%だったという調査もあります。死生観の喪失が実感させられます。

さて、多死化と少子化のなか、減少する労働力人口を補うには、働き方改革による労働生産性の向上の他に、高齢者の就労がどうしても必要です。

実際、総就労人口に占める65歳以上の割合は日本は世界でもトップクラスの約12%で、増加の一途です。ドイツでは2%、フランスで1%程度ですから、日本の高齢者がいかに働いているかが分かります。西欧社会とちがって、若い移民を受け入れてこなかったことも高齢者が働かざるを得ない大きな理由でしょう。

高齢者の体力、知力は10~20年前と比べて、5~10歳も若返っているという調査結果もあります。日本人は高齢まで働く必要があり、働くことも可能だというわけです。

しかし、がんは「遺伝子の経年劣化」といえる病気ですから、肉体的な若さとは関係なく、年齢によってそのリスクは決まります。日本人男性の場合、55歳までにがんになる確率は5%にすぎませんが、65歳までは15%、75歳では3割を超えます。

働く高齢者にがんが多発する「がん社会」が到来しています。この社会を生き抜くためのカギは、経営者も社員も「がんを知る」ことだと思います。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年2月4日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
東京大学医学部附属病院 中川 恵一(なかがわ けいいち)医師

中川先生

1985年東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部放射線医学教室入局。スイス Paul Sherrer Institute へ客員研究員として留学後、社会保険中央総合病院放射線科、東京大学医学部放射線医学教室助手、専任講師を経て、現在、東京大学医学部放射線医学教室准教授。この間、平成15年から26年まで、東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。患者/一般向けの啓蒙活動にも力を入れており、福島第一原発後は、飯舘村など福島支援も積極的に行っている。主な著者には『自分を生ききる』(共著)、『緩和医療のすすめ』、『ビジュアル版 がんの教科書』、『がん!放射線治療のススメ』など多数。日経新聞で「がん社会を診る」を毎週連載中。がんの専門家として、人気TV番組「世界一受けたい授業」にも出演。

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