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経営者に知ってほしいがんの知識 /第39回 富士通のがん教育

がんのコラム 2020年4月21日

現在、日本では、男性の3人に2人、女性でも2人に1人が一生の間になんらかのがんにかかります。私もその一人でしたが、毎年100万人以上の日本人が新たにがんと診断され、その3分の1が働く世代の人です。

がんは細胞の老化といえる病気ですから、年齢とともに発症者は増えます。しかし、乳がん、子宮頸がんは例外的に老化以外の要素が大きく、54歳までは女性に多い病気です。今後、定年が延長され、働く女性の割合が増えることで、働く世代のがん発症は、さらに増えると思われます。

がんは、少しの知識とそれに基づく行動によって、運命が分かれてしまう病気ですから、「がんを知る」ことが大切です。中学、高校の学習指導要領に「がん教育」が明記され、現在、全国展開が進められています。

問題は今の大人たちへの教育です。学校でがん教育を受ける機会はありませんでしたし、就職後もそのような機会を得ることは困難です。この「大人のがん教育」の不在はわが国の大きな課題であり、その解決には企業の力が不可欠です。子供にとっての学校に相当する一種の強制力を持つ場所は、大人にとっては職場だからです。

このような状況に一石を投じる素晴らしい取り組みを、大手IT企業の富士通が1月から開始しました。それは、富士通の国内グループ7万人を対象として、がん教育を実施するというものです。教育内容の監修には私も協力させていただきました。私の知る限り、これほどの規模でがん教育を実施した企業はなく、世界でも類を見ない先進的な取り組みです。

富士通のがん教育は、がんで命を落とさないために最低限知っておくべき点をまとめた私の講演と、ネットを介したeラーニングで構成されています。eラーニングの教材は、がんの基礎知識から予防のための生活習慣、がん検診の重要性、仕事と治療の両立に至る幅広い範囲をカバーした大変充実したものになっています。

企業のがん教育への取り組みは、がんによって貴重な人材を失うことを未然に防ぐだけでなく、企業イメージの向上、従業員のエンゲージメントの向上につながるのではないでしょうか。

さらに、富士通は社会貢献の一環として、この教材を自社利用だけにとどめず、職域におけるがん対策を進める国家プロジェクト「がん対策推進企業アクション」を通じて広く利用できるよう公開予定です。

この取り組みが日本のがん対策を変える、大きな一歩になることを期待しています。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年2月25日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
東京大学医学部附属病院 中川 恵一(なかがわ けいいち)医師

中川先生

1985年東京大学医学部医学科卒業後、東京大学医学部放射線医学教室入局。スイス Paul Sherrer Institute へ客員研究員として留学後、社会保険中央総合病院放射線科、東京大学医学部放射線医学教室助手、専任講師を経て、現在、東京大学医学部放射線医学教室准教授。この間、平成15年から26年まで、東京大学医学部附属病院緩和ケア診療部長を兼任。患者/一般向けの啓蒙活動にも力を入れており、福島第一原発後は、飯舘村など福島支援も積極的に行っている。主な著者には『自分を生ききる』(共著)、『緩和医療のすすめ』、『ビジュアル版 がんの教科書』、『がん!放射線治療のススメ』など多数。日経新聞で「がん社会を診る」を毎週連載中。がんの専門家として、人気TV番組「世界一受けたい授業」にも出演。

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