財務力を鍛えたい

2016年3月22日

なぜ、経営者の財務力がビジネスの成否を分けるのか?

税務・財務・会計 経営者 資金調達・予算管理

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財務と会計は別物だけど表裏一体

「財務や会計が分からなければ、まともな経営はできない」

こう言われるのは、一体なぜなのでしょうか? 早速ですが、皆さんは財務と会計の違いをご存じですか。両者の意味は全く異なりますが、表裏一体の関係にあります。

まずは財務です。財務とは、お金を調達し、ビジネスに投じ、お金を生み出す行為全般を指し、英語では「ファイナンス(Finance)」と呼びます。例えば、銀行などからの資金調達から始まり、設備投資や企業買収、事業承継における会社の価値評価も財務の一部です。

ところで、銀行に融資をお願いする際、事業計画書や財務諸表を使って交渉することになります。立派な資料を作るのもよいのですが、単にそれを読み上げるだけでは、事業のワクワク感や将来への期待が相手の心に響きません。

そこで、求められるのが会計に関する能力です。会計とは、ビジネスの仕組み、つまり、どうやって儲けているのか、お金をどこから調達し、何に使っているのか、日々の資金繰りはどうなっているのかをお金で説明すること全般を指します。英語では「アカウンティング(Accounting)」と呼び、「説明する」という意味も含まれます。

つまり、経営者に求められる会計力とは、お金の流れを細かく管理することではなく、ビジネスの仕組みについて相手の心の琴線に触れるようにお金で“説明”することなのです。

これから皆さんにお伝えする「財務力」は、これら財務と会計のつながりを踏まえた上で、ビジネスを成功に導くためのものです。

変化に対応するための財務力

経済のパイが順調に拡大している状況であれば、ビジネスで儲けるチャンスも広がります。こうした経営環境では、売上やシェアの拡大が経営目標となります。作れば売れる時代とは言い過ぎですが、とにかく規模の追求が大切なのです。

もし、こうした経営環境で経営者を務めているとしたら、必要な財務力は損益計算書(PL)のトップライン(売上)さえ読めれば何とかなったかもしれません。売上が伸びれば、利益も勝手についてくるからです。

しかし、現在の状況はこれとは全く異なります。日本はバブルの崩壊によって、作れば売れる右肩上がりの成長が止まりました。加えて、少子高齢化が進展して市場が縮小しています。経営者は、たとえ売上が減ったとしても利益を確保するために、従来よりも精緻に計算吟味して、意思決定をしなければならなくなりました。

もう少し具体的にいうと、経営者は次で示すような「財務力」の基礎をきちんと理解しなければ、ビジネスで勝ちにくくなったということです。

  • 利益を生み出すメカニズム
  • ビジネスを継続、成長させるために、お金をどこに投資するのか?
  • 資金をどのように調達するのか?
  • 返済資金をどのように確保するのか?

銀行と経営者を結ぶ財務力

最近は、ROE経営や企業価値拡大が注目を集めている一方で、これらは上場企業が考えることで、非上場の中小企業には無縁であるという意見も少なくありません。確かにそうした考え方もありますが、全く意識しなくてよいかというと、そういうわけでもありません。

非上場で株主がほとんど親族という会社にとって、外部の主たる“投資家”は銀行になるわけですが、銀行借入、つまり資金調達は従来よりも容易になっているでしょうか。

バブル崩壊以降、銀行の預貸率(預金に対する貸出の比率)は低迷しています。銀行は集めた預金を貸出に回さず、日銀の当座預金に積んでいます。日銀のマイナス金利政策は、これらのお金を融資に回すように民間銀行を促しているわけです。

ただし、誤解してならないのは、銀行が融資をしたくないわけではないのです。むしろ、銀行は貸したいと考えています。銀行にとっては、預金と貸金の利ザヤが利益の源泉ですから、これは当然のことです。また、私は銀行時代に人事部で採用にも携わりましたが、新入行員は皆、口をそろえて「お金を融資して経済の血液であるお金を回していきたい」と言っていました。

にもかかわらず、銀行が融資に慎重になっているのは、銀行は低リスク・低リターン志向の“投資家”だからです。慎重に与信リスクを吟味し、リスクが低い案件を探しているのです。当たり前のことですが、銀行はきちんと返済してくれる先に貸したいわけです。

これに対して、お金を借りたい会社の姿勢はどうでしょうか。何にお金を使うのかは丁寧に伝えるものの、どうやって返済するのかについての説明はあまり熱心でないというか、銀行を安心させる説明ができていないのが実情なのです。

例えば、新規事業のためにお金を借りるとしましょう。まずはワクワクする魅力的なビジネスプランが必要です。しかし、これだけでは銀行は納得しません。

その事業でどれだけ収益が上がるのか、どういう資金繰りでビジネスを回し、返済計画はどうなっているのかというストーリーを定量的に説明できなければ、銀行は融資に踏み切れません。

そのための資料は財務担当者が作成するから大丈夫だと経営者は言います。しかし、ビジネスプランを考えたのは財務担当者ではありません。財務担当者は、数字をまとめることはできても、ワクワク感を表現することはできません。

求められているのは、粗削りでもよいのでワクワクするビジネスプランと、それと連動した儲けのからくり、規模、返済計画の説明なのです。

経営者に求められる財務力

これまでの話をまとめてみましょう。経営者に必要な財務力とは、PDCAサイクルに基づいて財務諸表を読み解く力、つまり分析力なのです。

PDCAサイクルで回す財務力

これは、定性的なビジネスストーリーを練り、定量的に妥当性を検証する作業を繰り返すことだともいえます。こうして問題把握(財務分析力)⇒打ち手の検討⇒打ち手の妥当性検証(定量化による検証力)⇒実行⇒問題把握というサイクルを回し続けることが会社を強くします。

PDCAサイクルにおいて、皆さんは「良いP(プラン)」であるか否かについて、定量化して儲かるか、資金が回るかどうかを検証して判断するのではないでしょうか。また「C(チェック)」について、事業計画と実績を定量的に比較しているのではないでしょうか。

財務力とは、難しいことでも、真新しいことでもなく、ビジネスの基本であることをご理解いただけたと思います。

以降のシリーズでは、財務力、とりわけ財務分析力と戦略の定量化による検証力について考えていきます。多くの市場がシュリンクする中、経営者は新領域の開拓(商品・サービス、市場)に懸命です。これまでの経験知が役に立たない新しいチャレンジにおいて、特に財務力は求められています。この連載を皆さんの財務力を高める一助としていただければと思います。引き続き、お付き合いいただければ幸甚です。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年3月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
グロービス経営大学院教授 松本 泰幸(まつもと ひろゆき)

九州大学法学部卒業。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。八重洲通支店・ユニオンバンク(米国加州の姉妹銀行)・営業第一部でコーポレートファイナンス、資本市場第二部・市場営業部でキャピタルマーケッツ業務、人事部で採用、企画部で企画、組織設計に携わる。その後、東京証券取引所一部上場の事業会社2社で財務部長、関連事業部長、外資系コンサルティングファームで金融サービスコンサルタントとして活動し、投資顧問会社・コンサルティング会社を傘下に持つHCAグループの設立に参画。現在は、農業経営コンサルティング業の株式会社日本アグリマネジメント、農業生産を行う株式会社みなみん里を設立し、各々代表取締役社長。他に経営コンサルティングを行う株式会社LonePine代表取締役社長。株式会社丸八ホールディングス非常勤取締役。グロービス経営大学院教授(アカウテンィング、ファイナンスなど)。

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