財務力を鍛えたい

2016年5月16日

経営者が実践すべき損益計算書の読み方

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財務力の基本-財務諸表の分析の方法(財務諸表の見方)

第2回の今回からは、財務諸表の見方について述べていきたいと思います。財務諸表は財務三表とも呼ばれ、損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CFS)で構成されます。皆さんは自社、競合相手、お取引先様、目標とする会社の財務諸表をよく見ますか? 経理部長から定期的に報告を受けたり、お取引先様から頂いたりしますが、正直見方がよく分からないという人もいるかもしれません。

また、損益計算書や貸借対照表の数字を見るだけで、どうも抵抗を感じるという人もいるかもしれません。実際、財務諸表は会計や経理の専門家のためのデータのような気がする、日常のビジネスからかけ離れた遠いところの話のような気がするとの声もよく聞きます。

しかし、財務諸表は経営者にとってとても身近なものなのです。

皆さんは出社したときに、会社のどのようなことが気になりますか? 社員が真面目に働いている、工場からは生産ラインが動いている音がする。こうしたビジネスの営みの中で、果たして昨日は儲かったのだろうか、備品の購入や機械の修繕費の支払いについて決裁したけれども、今どこからお金をいくら調達し、何に使っているのだろうか。そもそも次の返済期日はいつで、資金繰りは大丈夫なのか、といったことが気になるのではないでしょうか。このようなことが確認できれば、安心して日々の仕事に取り組むことができます。

しかし、経営者は多忙です。大量の資料を渡されても数字の把握や分析に割く十分な時間が確保できません。そこで、経理や簿記を体系的に学んだ経験のない人でも分かりやすく確認できる簡潔さと一覧性を併せ持ったものが必要とされ、“A4の紙一枚に収まる程度”にまとめられたものが財務諸表です。

財務諸表は戦略の成果を評価するための成績表

財務諸表は、儲かり具合、儲けの仕組みを表した損益計算書、資金の調達方法と使途を一覧に表した貸借対照表、どこで現金を生み出し、どこに現金を支出し、今現在いくらの現金があるのかを表したキャッシュフロー計算書の3つで構成されます。これを読んだだけでも、財務諸表には経営者が一番に気にしている情報がまとめられていることがお分かりいただけるでしょう。

儲けの仕組みを表す損益計算書

経営者の皆さんにとっての最大の関心事は会社の儲けでしょう。今回は財務諸表の中でも、恐らく最も身近な存在と思われる損益計算書について見ていきます。

まず、自社の財務諸表をお手元に3期分ご用意ください。ビジネスは日々動いています。1期分だけ見てもどこがうまくいっているのか、どこに課題があるのかは見えにくいものです。自社の過去の財務内容との比較、競合会社の数値との比較、類似事業を営む上場公開会社の数値との比較において、特徴や課題は見えてくるものです。何か比較するものをご用意ください。銀行融資を申し込む際に銀行は必ず3期分の財務諸表を求めます。これは、3期分あると傾向が読み取れるからです。右肩上がりなのか、右肩下がりなのか、変動するが特に傾向がないのか、安定しているのかを見るためです。

いよいよ損益計算書の中身を見ていきますが、上から順に一行ずつ見ていく必要はありません。最初に売上と4つの利益(売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益)に印をつけてください。いきなり利益を見にいくのではなく、必ず売上を見て(他社の数値なら)ビジネスの規模、(自社の数値なら)傾向を把握してください。

損益計算書の読み方-読み手はこう読む

売上には社会やお客様が皆さんの会社の提供する価値(製品や、サービス)を評価してくれているのかどうかが表れます。例えば、金融機関は単に数字の大小や変化を見ているのではなく、皆さんの会社が提供する価値が社会やお客様に認められているのかどうかをここから推し量ろうとします。売上を販売数量と販売単価に分解してみると、何が起きているかがより鮮明に見えてきますね。多くのお客様が利用されているのか、高い価格でも財布のひもを緩めて喜んで代金を払ってくれているのかが読み取れます。金融機関からこうしたデータを追加で要求されたことはありませんか。

次に、4つの利益を見ていきましょう。売上総利益、俗にいう粗利ですが、ここでは皆さんの会社の製品やサービスの競争力が読み取れます。また、薄利多売のビジネスなのか、高付加価値型のビジネスなのかについても読み取れます。ちなみに、自社の数字を他社の数字と比べる場合は、ひと手間かける必要があります。異なる金額を並べても、その差が何を表すのかよく分かりません。利益など収益性を見る場合には、売上高に対する利益率で比較するとビジネスの特徴が見やすくなります。

次に、営業利益です。これは本業の利益とも呼ばれ、仕入れて、作って(在庫で持ち)、販売してという本業でいくら稼いでいるかを表しています。社内の会議などでは、部門ごとの利益をこの営業利益で見ているのではないでしょうか。

その次に、経常利益です。これは会社の実力を表す利益と呼ばれています。営業利益に営業外の損益を加減算した利益で、本業ではないのだけれども、恒常的に本業に付随して発生する損益が含まれています。例えば、借入に伴う支払利息や手元資金運用に伴う受取利息、貿易取引に伴う為替の差損益などが代表的なものです。昨今の超低金利下では支払利息の負担は重くないでしょうが、バブルの頃は資金の調達金利が10%近いこともありました。過大な借金をした会社は支払利息負担が重く、営業利益で黒字でも、経常利益段階で赤字になることもありました。本業ではないけれども借金をしてビジネスをする以上、支払利息を払った後でちゃんと利益が残るようにしておかなければいけませんね、ということで、会社の実力を表す利益と呼ばれているのです。

最後に、当期純利益です。これは損益計算書の最終行に登場するので、ボトムラインの利益などと呼ばれます。売上が損益計算書の最初の行に登場するのでトップラインと呼ばれているのと同じです。これは、決算期間を通じて結局いくらの利益が残ったのかを表しています。上場公開会社の株主は、この利益を大変重要視します。株式購入を通して会社に預けたお金を決算期間にいくら増やしてくれたのかがこの利益に表れるからです。最近よく登場するROE(Return on Equity)のReturnとは、この当期純利益を指しています。このあたりについては、次回以降に詳しく触れていきます。

こうして、社会やお客様は皆さんの会社の提供している価値を認めてくれているのか(売上)、製品商品やサービスに競争力はあるのか(売上総利益)、本業で稼げているのか(営業利益)、財務面に脆弱性はないのか、恒常的に稼ぎ続けられるのか(経常利益)、最終的に利益は残ったのか(当期純利益)を競合や自社の過去の数値と比較しながら、まず全体感を把握してください。

稼ぎ方についての全体感をつかんだところで、今度はその儲けを生み出すためにどんな活動をしているのかということで、売上と4つの利益の間に記載されているもろもろの活動について見ていきたいと思います。具体的な日々のビジネス活動のために支払った経済的犠牲、つまり費用を見ていくこととなります。これも上から下まで順を追う必要はありません。

定規をご用意いただき、損益計算書に縦に当て、左から右に(大きい数字から見え始めるように)動かしていってください。数字の大きなものから10個の費用の科目に印をつけてください。経営に影響の大きな費用(活動)にどのようなものがあるかをまず把握しましょう。経営に影響の小さい数字は無視して構いません。

事務用品の購入代金や出張旅費の旅行会社への支払いなど、あらゆる日々の活動が財務諸表には漏れなく記載されていますが、私は事務用品の大量購入や頻繁な出張により潰れた会社を見たことがありません。このあたりの数字は無視してもよさそうですね。

また、費用にはそれぞれ名前が付いていますが、これらは覚える必要はありません。どういう性質の費用をまとめて記載したかが分かるように書かれているだけです。読めば内容は推し量れます。また、どういう名前の費用が原価(売上原価)や販管費(販売費及び一般管理費)にそれぞれ計上されるのかも覚える必要は経営者にはありません。生産ラインで働く人の人件費は原価、営業部員は販管費、工場の減価償却費は原価、本社建物の減価償却費は販管費のように、人件費や減価償却費は原価にも販管費にも登場します。

経営者の皆さんが理解しておくべきは、どういう性質の費用が原価や販管費になるのかということです。

売上と売上総利益の間にあるのが原価です。財務諸表の読み手は、その会社の製品やサービスが効率よく生産されているかを他社の数字や会社の過去の数字と比較しながらここで読み解きます。繰り返しになりますが、決して原価の中にどういう名前の費用があるのかを覚えようとしないでください。そんなことをしていたら分析までたどり着けません。経営者にとって重要なのは、原価とは“モノやサービス”を作るのに掛かった費用だという言葉の定義です。

テーマパーク運営会社のオリエンタルランドの財務内容を想像してみましょう。パーク内には飲食店、ショップがたくさんあり、多くの人が働いています。また、広い園内の清掃にも多くの職員が従事しています。果たしてこの方々の人件費は、原価でしょうか、それとも販管費でしょうか。物販要員、清掃要員と考えれば販管費かもしれませんね。実際に、同社の損益計算書を見ると、よくある「販売費及び一般管理費」という科目はなく、「一般管理費」とあります。また、原価率が結構高いのです。原価の中にある大きな科目にはロイヤルティーの支払いや施設の減価償却費などもありますが、さらに大きな数字なのが人件費です。恐らくパーク内で働く人たちの人件費が原価になっているのですね。一般管理費の中の人件費は原価にある人件費と1桁違う小ささです。

これは、オリエンタルランドが、ゲートを超えた先の空間そのものが自分たちの提供価値だと考えていて、パーク内で働く職員の人件費は、提供する空間そのものを作るのにかかったものと捉えているということでしょうね。なるほど、だからパーク内の職員をキャストと呼び、清掃もパフォーマンスを見せながらだったり、ジュースをこぼして泣いている子供の前でこぼれたジュースで絵を描いてあげたりしているんですね。提供価値があの空間そのもので、人事担当部署はキャストとして人を募集し、経理担当部署は原価に人件費を入れて、一人一人の職員はキャストとしての自覚に基づいて、単なる物販、清掃以上の一段高い付加価値をお客様に提供しようとしているのですね。経営理念、会社のミッションが組織や個々の職員に染み込んでいる組織は強いのでしょうね。テーマパーク流の経営本が書店に並ぶわけですね。

次に、販管費と呼ばれる費用ですが、ここでは、効率よく営業、マーケティングが行われているか、管理部門の費用が肥大化していないかなどが財務諸表の読み手の関心事です。

ここまでの原価と販売費及び一般管理費を売上から差し引いたものが本業の利益を表す営業利益になるわけです。

営業利益と会社の実力を表す経常利益の間に登場するのが営業外損益です。本業ではありませんが、本業に付随して毎年恒常的に発生するものです。ここでは支払利息や為替差損益など主として財務活動に係る数字が登場します。財務諸表の読み手は、借金が経営を圧迫していないか、利払いがちゃんとできる程度の利益は出ているのか、といった観点でその会社の財務体力を推し量ります。例えば、任天堂は平成25年3月期と平成26年3月期に営業損失を計上しましたが、いずれの年度も経常利益は黒字を確保しています。グローバルに展開する優良会社として過去の蓄積で外貨建て資産を大量に保有していて、為替の円安推移とともに両年とも400億円近い為替差益を計上しています。ちなみに平成25年3月期には、約25億ドルの現預金を保有していたとのことです。

読み手からすると、本業で苦戦しているのに、財務面では潤沢な資産があり、足腰はしっかりしているなというふうにも読めるのです。2兆円規模の現預金を有し、トヨタ銀行などとも揶揄(やゆ)されるトヨタ自動車も例年支払利息よりもはるかに大きな受取利息および受取配当金を計上しています。昨今為替が大きく変動しますので一概にはいえませんが、経常利益が営業利益よりも大きくなっている会社は、財務健全性が高いといえるでしょう。

経常利益以降は、反復継続して発生しない一時的な利益や損失を特別利益、特別損失として記載しています。ここでは、何か大きなリストラなどがあったのかなどを推し量ることができます。

最後に税金を支払い、残る利益が当期純利益ということになるわけです。

さて、損益計算書を見てきましたが、売上から一行ごとに見ていく必要がないということをお分かりいただけたでしょうか。

まず、売上でビジネスの規模、最近のトレンド(お客様に価値が認められているか)を読み、次に4つの利益を見て、どこで利益を上げているのかを把握し、最後に売上と各利益の間に示されている費用から、どんな活動をして利益を生み出しているのか、利益は効率的に生み出されているのかを推し量るという流れで損益計算書を読み進めれば、時間をかけずに儲けのメカニズムを把握することが可能です。

まずは、ご自身の会社からいま一度読み直してみてください。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年5月13日時点のものであり、 将来変更される可能性があります。

執筆者
グロービス経営大学院教授 松本 泰幸(まつもと ひろゆき)

九州大学法学部卒業。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。八重洲通支店・ユニオンバンク(米国加州の姉妹銀行)・営業第一部でコーポレートファイナンス、資本市場第二部・市場営業部でキャピタルマーケッツ業務、人事部で採用、企画部で企画、組織設計に携わる。その後、東京証券取引所一部上場の事業会社2社で財務部長、関連事業部長、外資系コンサルティングファームで金融サービスコンサルタントとして活動し、投資顧問会社・コンサルティング会社を傘下に持つHCAグループの設立に参画。現在は、農業経営コンサルティング業の株式会社日本アグリマネジメント、農業生産を行う株式会社みなみん里を設立し、各々代表取締役社長。他に経営コンサルティングを行う株式会社LonePine代表取締役社長。株式会社丸八ホールディングス非常勤取締役。グロービス経営大学院教授(アカウテンィング、ファイナンスなど)。

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