財務力を鍛えたい

2016年6月27日

センスある経営者は貸借対照表から何を感じ取っているのか?

決算書 税務・財務・会計 資金調達・予算管理

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財務力の基本-財務諸表の分析の方法(財務諸表の見方)

前回の【経営者が実践すべき損益計算書の読み方】から財務諸表の見方について述べていますが、第3回の今回は貸借対照表(BS)を取り上げます。損益計算書(PL)は比較的なじみのある人も多いと思います。しかし、貸借対照表やキャッシュフロー計算書(CFS)となると、正直何をどう見たらいいのか分からないという経営者も多いのではないでしょうか。

損益計算書は、儲かり具合や儲けの仕組みを表したものでした。今回の貸借対照表は、資金の調達方法と使途を一覧にしたものです。

資金の調達の状況とその使い道を表す貸借対照表

経営者にとって会社の儲け以上に気になるのは、「わが社は潰れないのか?」ですよね。会社が潰れる典型的なパターンは、お金を返さなければならないタイミングで返せないからです。今回見ていく貸借対照表は期末などある時点での資金の調達の状況、使い道を表したものです。その分析方法、見方が分かれば、安心して会社経営に打ち込めるものと思います。また、最近ではビジネスが効率よく運営されているかを見るツールとしても活用されています。この辺を解説していきたいと思います。

前回同様、自社の財務諸表をお手元に3期分ご用意ください(なぜ3期分かは前回の記事をご覧ください【経営者が実践すべき損益計算書の読み方】)。貸借対照表はバランスシート(Balance Sheet)とも呼ばれています。これは表の左右の合計数字がバランスする(同じ数字になる)ことからそのように呼ばれています。

トヨタ自動車の総資産は約47兆円ありますが(2016年3月期連結)、全く同額が右側に負債、純資産の合計として計上されており、見事にバランスしています。約47兆円もの金額が左右で1円も違わずにバランスするものですから会計と財務は無機質で、冷徹で、専門家の匠(たくみ)の技の世界のもののように受け止められがちです。しかし、これにはカラクリがあるのです。貸借対照表の右側には、資金をどこからいくら調達しているかが書かれてあり、左側にはその使い道が書かれています。従って、どれだけ規模が大きくなっても必ず貸借対照表はバランスするようにできているのです。実際の仕訳には専門知識が必要ですが、この記事をお読みいただいている経営者の皆さんには、誰かが作った貸借対照表をどう分析、解釈し、日々の経営に生かすかが重要ですので、上記のように右に調達、左にその使い道が書いてあるのでバランスするのだという理解でよいと思います。

貸借対照表を読んでみよう

いよいよ貸借対照表の中身を見ていきますが、上から順に1行ずつ見ていく必要はありません。損益計算書では、最初に売上と4つの利益(売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益)に印を付けましたね。今回は、左側の資産合計、右側の負債合計、純資産合計の3カ所に印を付けてください。

貸借対照表の構成・要素

左側の資産合計は、どれだけ資金をビジネスにつぎ込んでいるかを示しています。いわばビジネスの規模です。右側の負債と純資産の合計も同じ額になりますが、そのうち負債合計は返済期限がある資金の調達状況を表しています。残った純資産合計は、返済期限がない資金の調達状況を示しています。上場している会社であれば、株主は株式の発行主体である企業に買い取りを求めるのではなく、株式市場で売却することで資金回収しますよね。企業にとっては返済の必要がない資金ということです。非上場の場合は、譲渡が制限されている株式になっていることが多いと思いますが、この場合でも、発行体企業の認める第三者に譲渡させることによって、自ら買い取りを行う必要がありませんので、上場会社同様、返済期限のない資金であるといえます。

また、資産と負債は、それぞれ流動と固定に分かれます。1年以内に売上やキャッシュになる流動資産と売上やキャッシュになるのに1年超の期間を要する固定資産、また、1年以内に返済しなければならない流動負債と、いずれ返済する必要があるものの、1年を超えて返済すればよい固定負債とに分類されています。

まずは、3つのパーツ(資産、負債、純資産)の金額を確認しましょう。次に流動と固定に分けて、お金の使い道(資産)については、効率よく使われているか一度確認するとよいでしょう。やや専門的な話になるので詳述しませんが、資産に計上している金額ほどの価値が認められない資産については、減損処理をしなければなりません。最近では総合商社の資源関連の権益やM&Aに伴い計上したのれんが減損処理の対象となり、その結果、大きく利益を減らす、あるいは赤字に転落したといった記事が散見されます。また、減損ではありませんが、税務署との見解の相違により発生した繰延税金資産が業績の低迷で回収可能性が認められなくなり、これを取り崩し大幅に利益が減少するといったことも散見されます。

資金の調達については、誰からいくら借りているのかの棚卸をしましょう。経営者は1年以内に返済する必要のある金額がいくらあるのかも気になりますが、もう少し詳細な返済スケジュールも気になるでしょう。この際、定期的に金融機関ごとの返済スケジュール、返済時期をまとめて報告してもらうようにしておくとよいですね。

貸借対照表から会社の安全性を見る

会社の安全性を見る際のポイント

ビジネスに必要な資金を過度に負債に頼り過ぎていないかどうかを見る指標に自己資本比率があります。これは、資金調達のどの程度を返済の必要のないお金で賄っているかを表すものです(財務指標については、別の記事にまとめる予定です)。会社は支払期日に支払えないから潰れるわけですから、支払期日のある負債が少ない会社は潰れにくいということで、安全性を表す指標とされています。自己資本比率は、自己資本÷(負債・純資産合計)で計算されます。
(注)自己資本=純資産-(非支配株主持ち分+新株予約権)。非支配株主持ち分、新株予約権のない会社は自己資本=純資産です。

さて、計算方法は理解したし、意味も理解できたが、果たしてどの程度あれば安全なのかが疑問ですよね。これには一般にこれ以上あれば十分ですという基準があるわけではないのです。経営者としてここは知識を身に付けるというよりも、感覚として心地よい水準かどうかを感じ取れるようになりたいところです。

例えば、電力、ガス、鉄道といったインフラ関係のビジネスは業績も安定していて、代金の回収も相対的に堅いので自己資本比率は低くてもよいでしょう。一方、資源開発、エンターテインメント、製薬といったビジネスは、“当たる”と業績が急上昇しますが、ヒット商品が出ないと費用だけがかさみ、売上が出てこないということもあり、有名な大きな会社でも負債を利用し難いのです。皆さんがこういった業種の会社の経営者だったらどうしますか? と、ご自身がそのビジネスでかじ取りをする立場になったつもりで考えることが、財務指標の意味するところを感じ取るうえで有益なアプローチです。同じ業界でも直近(2015年12月期)の決算を見るとアサヒグループホールディングスは46%、キリンホールディングスは27%、サッポロホールディングスは25%とばらつきがあります。ここは、各社の経営者が悩みに悩んで、戦略的にどの程度の水準にするかを決めているのです。ここに経営力が反映されるということですね。

次に、流動資産と流動負債を比べてみましょう。すぐに支払えと言われる流動負債に対して、すぐに現金化可能な流動資産が多くあれば、会社が潰れる心配は低くなりますね。これが、流動比率と呼ばれる指標です。計算式は流動比率=流動資産÷流動負債です。もちろん売掛債権には貸し倒れのリスクがあります。棚卸資産も減耗してしまうかもしれません。ですから100%を超えていればよいのかと問われれば、多少のバッファーが必要だということになりますが、経営者は貸し倒れや在庫ロスの過去実績などからご自身のビジネスの経験を総動員して、良しあしを感じ取っていただきたいと思います。

貸借対照表から実はビジネスの効率性が見られている

会社の効率性を見る際のポイント

近年は貸借対照表からビジネスの効率性が見られています。ROE(自己資本利益率)、ROA(総資産利益率)といった言葉を見聞きしたことはありませんか? これらは貸借対照表の資産や純資産を効率よく儲けにつなげているかどうかを判断するための指標です。

最近多くの上場会社がこのROEを経営目標に掲げています。これは株主から預かったお金(つまり自己資本)を、1年間活用してどれだけのリターン(儲け)を上げたかを示す指標です。当期純利益÷自己資本で計算されます。

株主は数千社ある上場会社の中から最も効率よく預けたお金の価値を上げてくれる会社に投資したいでしょうから、どの会社が最も効率よく株主から預かったお金を増やしてくれるのかを、この指標を通じて把握しようとしているのです。上場会社の経営者は資本家である株主に対して1年間の運用成績をお約束しているのですね。ここでいうリターン(儲け)は、配当ではありませんよ。分子には損益計算書の当期純利益が登場しています。この当期純利益は前回説明しましたが、結局最終的にこの1年でいくら儲けたのかを表しています。この当期純利益は株主に帰属し、一部は配当に、残りは利益剰余金として会社の内部留保として蓄えられるのですが、誰のものかといえば株主のものなのです。株主の立場に立てば、株式投資のリターンとは、配当+値上がり益(キャピタルゲイン)です。

一方で、経営者は「株価を何%上げますよ!」とは言えませんので、株主から預かっている純資産を増やせばその分理論上は株価も上がるんじゃないの? ということで、ROEを株主に対するお約束として掲げているのです。多くの上場会社が8%程度のROEを目標としています。上場会社(所有と経営が分離された会社)では、経営者は株主からお金を託されてビジネスで運用するわけですから、さしずめファンドマネジャーのような立場にあるともいえますね。

所有と経営が分離されている会社ではROEが厳しく問われる世の中になりましたが、所有と経営が同じ(株主=経営者)会社では、ROEはそれほど重要ではないかもしれません。ただし、ROA(総資産利益率)はいかなる会社にとっても重要な指標で、金融機関も効率よく資産が活用され、利益に結び付いているかを見るうえで重要な指標と位置付けています。金融機関には多くのお取引先があるので、同業他社との比較において皆さんの会社が効率よく資産を活用し、利益に結び付けているかを相対的にも評価しています。「消費が伸びないとか、円高とか外部環境が厳しいので、当社の業績も厳しい」と言っても、金融機関には多くの取引先データがありますので、果たして厳しい環境の中でどう経営力を発揮したかは、同業他社比較でも評価します。と、すると「外部環境は厳しいが、御社は同業他社比業績の落ち込みが激しいですよ」と内心思っているかもしれません。こういうときには、格好つけずに、「どうです? 同業他社比較でうちの会社の状況は?」と、聞いてみるのも手ですね。お付き合いのある金融機関には膨大な取引先データや優秀な調査部門があるでしょうから、うまく活用するのも一考すべきではないでしょうか。

ROAは、経常利益(あるいは営業利益。どの利益を用いるかは目的によって変わってきます)÷総資産で計算されます。他社比でわが社は効率よく稼げているかを見る場合には経常利益を、わが社のどの部門が最も効率よく使ったお金を儲けに繋げているのか、と社内の部門の成績を把握する場合には、部門の収益状況は営業利益までの把握にとどめている会社が多いでしょうから(営業利益の下に出てくるのは全社の財務活動に関わる収益と費用ですから、部門に配賦していない会社が多いのではないでしょうか)、営業利益で代用します。

社内の部門ごとにROAが把握できれば、どの部門が効率よく儲けに繋げているかが客観的に数字で把握できるので、投資予算配賦の際に参考にされることが多いようです。また、規模の異なる複数の部門の中でどの部門が最も効率よく稼げているのかが分かり、部門の評価にも使えますね。部門の評価に使えるということは、もちろん部門の責任者の評価にも使えそうですね。ROAだけで評価するわけではありませんが、評価の物差しの1つとして検討できるのではないでしょうか。効率を高めるために資産を見直し、稼働率の低い資産は処分をするようにと指示しても、社員は真面目に無駄な資産を探さないでしょう。しかし、部門長に評価の物差しに担当部門のROAを加えると伝えれば、ROAを上げるために、一生懸命資産を精査してくれると思いますよ。こうやって考えると財務・会計の知識は、組織や人を動かすためにも使えそうですね。

ここに経営者が財務力を高める必要性があるのではないでしょうか。会社の目標と個々人の目標はベクトルが同じで、個々人の目標の総和が会社の目標と一致しなければ目標達成は難しいのですが、この全社の戦略・目標の各組織への浸透、個々人への分解が組織設計、人事制度の中でつながりをなくしている会社は少なからず存在すると思います。財務力のない人事部長に評価されている社員はかわいそうだなと感じます。多くの会社が働きに報いたい、成果を評価してあげたいと考えているのに、何が会社の成果なのかについて知見のない人が人事制度を作ると、労働基準法などの労働法は順守しているが、経営者の“想い”を制度に落とし込めていないのではないかと心配します。

ここまでは、資産が効率よく利益を生んでいるかについて記してきましたが、もちろん売上につながっているのかも重要です。

具体的には、総資産の成長率と売上の成長率を比較し、資産の増加が売上増につながっているかを見ます。例えば、最近大型化する傾向にあるM&Aですが、M&Aをすると一瞬にして資産の規模は大きくなります。投資家はその後、そのM&Aによって売上は順調に増えているのかを見ます。最近ではM&Aは会社の成長に大きく影響を与えることから、M&A後の会社の業績が厳しく見られています。

また、同じく効率よく売上を上げているかということで、総資産に対して売上がどの程度あるのかを示す指標である総資産回転率も注目されています。総資産回転率は売上高÷総資産で計算されます。回転率なんて言葉を出すと財務会計の専門用語のような気がしますが、要は総資産の何倍の売上を計上しているかということです。この数字だけ見ても良いのか悪いのか分かりにくいですね。だからこそ、他社と比較したりして自社の数字を見ることが重要なのです。ここでも取引のある金融機関の情報は活用できそうですね。回転率と言うと難しそうですが、はやりの「俺の○○」シリーズの立食レストランは、なぜ注目されているのでしょうか? そうですね、通常フレンチ、イタリアン、割烹(かっぽう)という業態ではディナーは座席数に対して1~2回転しかお客様を取れないのに対して、立食にすることでお客様の回転を良くして売上を伸ばしているのですよね。ここで出てくる回転と同じ意味合いです。

貸借対照表から「商い」の状況が見られている

会社の「商い」状況を見る際のポイント

最後になりますが、貸借対照表の流動資産の売掛債権、棚卸資産、流動負債の仕入債務は、金融機関などの投資家は注意深く見る科目です。ここは、あらゆるビジネスに共通して登場する日々の商いの根幹部分だからです。ここでは商いの根幹である仕入⇒製造⇒販売の流れが効率良く流れているかが見られています。

売上債権を早く確実に回収する、棚卸資産は極力圧縮(ただし欠品は論外)、仕入債務はできればゆっくり支払いたい、これは時代が変化しても変わることのない商いの鉄則ではないでしょうか。この数字を見ればいちいち聞かなくても売上債権が何日で回収されているのか、在庫は何日分抱えているのか、仕入債務は何日で支払っているのか、損益計算書では見えてこない日々の資金繰りの状況が分かるのです。それぞれの計算は売上債権回転期間=売上債権÷売上高×365日、棚卸資産回転期間=棚卸資産÷売上原価×365日、仕入債務回転期間=仕入債務÷売上原価×365日です。棚卸資産と仕入債務の計算の対象が売上高ではなく売上原価になっていますが、皆さん自社の在庫を把握するのに上代で計算しませんね。自社の仕入値である下代で計算しますよね。これが分かれば計算式の根拠は理解いただけるものと思います。

経営者の皆さんは借り入れのある金融機関の担当者から「御社のビジネスの仕組みを勉強したいので、仕入や販売の決済条件を教えてください」なんて言われたことはありませんか? 実は決算書を読んで自分で計算すれば、金融機関の担当者なら在庫が何日分あって、仕入と売上債権は何日で決済しているかは分かるのです。それなのになぜ聞くのか? 果たして、そこで計算した結果と、ヒアリングの内容が合っているかを確認するために聞いているのです。例えば、「うちは売上も仕入も月末締めの翌月末決済、在庫は1カ月分」と聞くと、「売上、仕入は最短30日、最長60日だからだいたい45日前後かな」となるわけです。これに対し決算書から計算したそれぞれの回転期間が聞いている話よりも長ければ、「不良債権があるのかな? 取引先が支払わないような何か営業上のトラブルがあるのかな?」「不良在庫がたまっているのかな?」「仕入先と何か支払でもめているのかな?」といったことが分かるので、おそらく担当者が代わるたびにこうしたヒアリングを受けているのではないでしょうか。

また、これらの商いの条件が変わると同じ売上のビジネスをやっていても資金繰りは変化します。例えば、売上もほかの条件も何も変わらない中で、売上債権の回収条件が1カ月延びたらどうなりますか? そうですね。売上も費用も何も変わらないのに、資金繰りは1カ月の売上の分だけ苦しくなります。この売上債権、棚卸資産、仕入債務の各回転期間は皆さんの会社の日々の資金繰りを見るうえで重要な科目なのです。取引のある金融機関も必ず見ている部分ですから、経営者の皆さんも常時モニタリングしておく必要がありそうです。この部分は次回のキャッシュフロー計算書で詳しく述べたいと思います。

貸借対照表、いかがでしたでしょうか。損益計算書に比べてなじみのない方も多いと思いますが、安全性や効率性を見るために役立てていただければ幸いです。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年6月24日時点のものであり、 将来変更される可能性があります。

執筆者
グロービス経営大学院教授 松本 泰幸(まつもと ひろゆき)

九州大学法学部卒業。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。八重洲通支店・ユニオンバンク(米国加州の姉妹銀行)・営業第一部でコーポレートファイナンス、資本市場第二部・市場営業部でキャピタルマーケッツ業務、人事部で採用、企画部で企画、組織設計に携わる。その後、東京証券取引所一部上場の事業会社2社で財務部長、関連事業部長、外資系コンサルティングファームで金融サービスコンサルタントとして活動し、投資顧問会社・コンサルティング会社を傘下に持つHCAグループの設立に参画。現在は、農業経営コンサルティング業の株式会社日本アグリマネジメント、農業生産を行う株式会社みなみん里を設立し、各々代表取締役社長。他に経営コンサルティングを行う株式会社LonePine代表取締役社長。株式会社丸八ホールディングス非常勤取締役。グロービス経営大学院教授(アカウテンィング、ファイナンスなど)。

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