財務力を鍛えたい

2016年7月25日

多忙な経営者はキャッシュフロー計算書をどのように見るべきか?

決算書 税務・財務・会計 資金調達

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財務力の基本-財務諸表の分析の方法(財務諸表の見方)

第4回の今回は、CF(キャッシュフロー)計算書を取り上げます。いつも通り、自社の財務諸表を3期分ご用意いただきたいのですが、上から順に1行ずつ見ていく必要はなく、営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)、投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)、財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)の3カ所に注目します。

このシリーズで紹介してきたことを復習すると、損益計算書では5カ所(売上と4つの利益)、貸借対照表では3カ所(左側の資産合計、右側の負債合計、純資産合計)に注目しました。これらに、CF計算書の3カ所を加えた合計11カ所を見て、会社で何が起きているのかを、おおよそ推測することが重要です。経営者は忙しいので、時間をかけてじっくりと自社や競合先の財務諸表を読むことは難しいでしょう。ですが、財務諸表の11カ所を押さえれば、ビジネスの構造に変化が生じていないか、戦略は思い通りに動いているかなどのチェックに使えます。

3つのキャッシュフロー(営業CF、投資CF、財務CF)の見方

3つのキャッシュフローの見方ですが、ポイントはプラスとマイナスの符号です。営業CFは会社が本業でしっかりキャッシュを生み出したかどうかが表されています。皆さん、自社の営業CFはプラスが望ましいですか、マイナスが望ましいですか? そうですね、本業でキャッシュを生み出すために日々汗しているわけですから、当然プラスでなければなりません。

次に投資CFですが、自社のこの数字はプラスが望ましいですか、マイナスが望ましいですか? 将来の成長のために投資をしたら、投資CFはどうなるのかを想像してみてください。そう、投資をするということはキャッシュを使いますから、投資CFはマイナスになります。ここは勘違いしやすいポイントなので注意してください。投資をすることは「良いことだから」と良しあしを評価すると符号を勘違いしがちです。ここでは良しあしは関係なく、単純にお金が入ってきたのか出ていったのかだけを表現します。

同様に財務CFも符号の勘違いをしやすい項目です。銀行から借金をすると財務CFはどうなるでしょうか。銀行から借金をすると、後から返済しなければならないので経営者にとっては気が重いものですが、キャッシュは銀行から振り込まれて増えます。つまり借金をするとキャッシュフローはプラスになります。逆に、返済をすれば当然ながらキャッシュフローはマイナスになります。

フリーキャッシュフローの見方

営業CF、投資CFを積算したものを「フリーキャッシュフロー(FCF)」と呼びます。文字通り自由に使えるお金の意味で、ビジネスで生み出したキャッシュを、資金提供してくれた株主や債権者に返済する原資にもなります。ここでお気付きだと思いますが、お金の世界では、「投資」は自由に使えるお金の範囲で行うものとされていない点が興味深いですね。「投資」は厳しいビジネスの世界を勝ち抜くために、不可欠なものと位置付けていることが分かります。

では、このFCFは大きければ大きいほど良いのでしょうか。

成長産業に身を置く会社で、今後の成長も期待でき、新規参入も多く見込まれる中、今のうちに業界の中での地位を確立しておきたい。皆さんご自身がこういう会社の経営者だとしましょう。営業CFはどうなりますか。そうですね、大きなプラスでしょう。一方で投資CFはどうでしょうか。こちらは業界内での地位を確固たるものにすべくたくさん投資するでしょうから、大きなマイナスになるでしょう。つまり、FCFは必ずしもプラスが大きいほうが良いということではありません。例えば、大型のM&Aなどの記事を目にするソフトバンクは、4期連続で営業CFのプラスよりも投資CFのマイナスのほうが大きく、結果、FCFはマイナスとなっています。大きいプラスかどうかを見るのではなく、会社の資金を生み出す力、将来への布石としての投資の状況、資金の過不足の調整方法(返済、新規借り入れ)をキャッシュという観点から読み解くツールがCF計算書なのです。

2点補足しておきます。取引先の信用状況を見る場合に2点に注目してください。1つは営業CFです。在庫の評価の仕方などによって損益計算書の利益は変わってきます。一方、仮に在庫を増やすと貸借対照表上はその分だけ仕入れに使った現金が減ることになるので、キャッシュは減ることになります。これらの結果、営業CFがマイナスになったりします。もし、このような状況になったら、取引先に状況の説明を求める必要があるかもしれません。

もう1つは投資CFです。投資CFも将来の成長に向けた布石と読めますが、本当に将来の成長のために使ったのかについて、投資CFの中身を確認しなければなりません。本業とは関係のない財テクで破綻した会社も少なくないのです。

キャッシュフロー計算書の基本構造

ここまでCF計算書の見方を見てきましたが、最後にCF計算書がどうやって作られているのかを簡単に紹介します(図表1)。CF計算書の作成は経営者の仕事ではありませんから、肩の力を抜いてお付き合いください。

キャッシュフロー計算書の基本構造


CF計算書は損益計算書と貸借対照表を加工して作っています。投資CF、財務CFは分かりやすいでしょう。投資をすれば投資CFはマイナスに、新たに借金を増やせば財務CFはプラスになります。イメージがつかみやすいですね。ここでは、営業CFの作成メカニズムを少しだけひもといてみましょう。

スタートは損益計算書の当期純利益です。この利益がそのまま現金として残っていれば、わざわざCF計算書を作成する必要はないのですが、実はそういうわけではなく、キャッシュの増減要因を加減算しながら調整します。最初に減価償却費を加算します。これは大事なポイントです。利益を計算する過程で原価や販管費に減価償却費が登場して利益を減らしますが、キャッシュという観点で見ると、減価償却費でキャッシュは減りません。そこで利益を計算する過程では、減らされるもののキャッシュを減らしていない減価償却費を足し戻してやる必要があるのです。

次に利益の中にある本業と無関係の損益を調整します。例えば、会社保有の不動産を売却して利益が出た、余剰資金の運用で有価証券投資から利益が出たなど本業以外で稼ぎ出した利益は、本業の生み出したキャッシュである営業CFとは無関係なので減算します(損失が出ている場合は逆に加算します)。これは投資CFの構成要素です。

最後に運転資本の増減を調整します。運転資本とは、流動資産(現金、有価証券を除く)から、流動負債(短期借入金を除く)を減算したものを指します(図表2)。狭義には、売上債権+棚卸資産-仕入債務で計算されます。

運転資本の増減

売上債権は損益計算書で売上として計上されていますが、キャッシュは未回収です。従って、営業CFでは減算します。また、棚卸資産も仕入れにキャッシュの支払いを伴うので営業CFの計算では減算します。

一方、仕入債務はいまだキャッシュを支払っていないので営業CFでは加算します。こうして計算された結果を、運転資本と呼びます。運転資本はビジネスを日々回していくために手当てしなければならないキャッシュです。これを減らすために、在庫を圧縮したり、売り掛けの回収を早くしたりします。また、仕入債務の支払いを遅くすると、同じく少ない資金でビジネスを回すことができるようになります。

そして、この運転資本で発生した必要資金を銀行からの借り入れなどで調達します。運転資本はビジネスをやっていると必然的に発生する資金ニーズなので、お金を貸す側の銀行などの金融機関からすると、まっとうな資金ニーズとして評価します。貸し倒れたり、在庫の価値が減耗したりするので、多少ののりしろを見ておく必要はありますが、この運転資本については、借りられる資金ニーズだと自信を持ってください。銀行の担当者は、この運転資本を計算して、自行がどの程度のシェアで貸し出すかを考えながら年間の貸し出し計画を立てています。運転資本については、毎年必要な手当てを行っているので、新たに調達が必要となる資金は、この運転資本の1年間の増加額部分ということになります。運転資本が増加するということは、支払いを要するキャッシュが新たに必要になるということなので、増加分だけ手元のキャッシュが減ってしまいます。従って、運転資本の増加額は手元のキャッシュを減らしてしまうので、マイナスで調整するということなのです。

CF計算書の計算メカニズムはなじみのない方には少し難解だったかもしれませんが、損益計算書と貸借対照表を、キャッシュの動きという観点から補う役割を持つCF計算書もぜひご活用ください。

自社のCF計算書を作成したことのない経営者の方は、ぜひ社内の経理部や顧問税理士に相談して、3期分のCF計算書をまずは作ってみてはいかがでしょうか。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年7月22日時点のものであり、 将来変更される可能性があります。

執筆者
グロービス経営大学院教授 松本 泰幸(まつもと ひろゆき)

九州大学法学部卒業。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。八重洲通支店・ユニオンバンク(米国加州の姉妹銀行)・営業第一部でコーポレートファイナンス、資本市場第二部・市場営業部でキャピタルマーケッツ業務、人事部で採用、企画部で企画、組織設計に携わる。その後、東京証券取引所一部上場の事業会社2社で財務部長、関連事業部長、外資系コンサルティングファームで金融サービスコンサルタントとして活動し、投資顧問会社・コンサルティング会社を傘下に持つHCAグループの設立に参画。現在は、農業経営コンサルティング業の株式会社日本アグリマネジメント、農業生産を行う株式会社みなみん里を設立し、各々代表取締役社長。他に経営コンサルティングを行う株式会社LonePine代表取締役社長。株式会社丸八ホールディングス非常勤取締役。グロービス経営大学院教授(アカウテンィング、ファイナンスなど)。

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