財務力を鍛えたい

2016年9月12日

収益性、効率性、安全性で読み解く財務指標

決算書 税務・財務・会計

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経営者ならではの財務諸表の分析方法

ここ3回は、「経営者ならではの財務諸表の読み方」を取り上げてきました。皆さんは自社の財務諸表を読んでみましたか。財務データを活用して、自社のビジネスの特徴、経営課題を読み解き、経営戦略やビジネスプランの効果を検証したいものです。

実際に財務分析を行う場合、自社の財務諸表の直近の数字だけではなく、自社の過去(中期経営計画開始前など)と直近の数字、ライバル会社の数字と比べてみましょう。そうすると、自社の特徴、経営課題、経営戦略が有効だったかどうかが見えてきます。

ただし、会社規模の違いなどから、財務諸表に並ぶ数字を単純に比較しても、数字が発しているメッセージをなかなかくみ取ることはできません。そこで、収益性であれば、利益の額ではなく、売上に対する利益率を指標化して規模の違いを排除し、ビジネスの特徴、経営課題、経営戦略の効果を把握するようにします。

今回は財務諸表を加工して、財務データから自社ビジネスの特徴、経営課題を読み解き、経営戦略・ビジネスプランの効果を把握するための指標分析を取り上げます。

知っていますか? 指標分析の手順

財務データを活用して企業分析をするとして、皆さんは会社のどのようなことが気になりますか? 第1回目からお伝えしていることですが、もうかっているか、どこでもうけているかを示す収益性、効率良くビジネスが行われているかを示す効率性、我が社は潰れないかを示す安全性、さらには成長しているかを示す成長性など、気になることがたくさんあるはずです。しかし、あちこち気になるところを見ても、全体像は見えません。指標分析にも手順があります。まずは、会社の総合力を表すROEとROAから見ていきましょう。

会社の生産性を見る際のポイント

総合力を表す財務指標 ROE/ROA

ROEとROAの詳しい解説は、「センスある経営者は貸借対照表から何を感じ取っているのか?」をご参照ください。ROEとROAが企業の総合力を表す指標だとされるのは、それぞれが以下のように分解できるからです。

ROEは、どれだけ効率的に利益を稼ぎ出しているかを表す指標で、「収益性×効率性×安全性(ROAは「収益性×効率性」)」で構成されています。ROEを分解することで、ROEの高低の原因が見えてきます。

売上高当期純利益率は、売上からどれだけ利益を生み出しているかを表す収益性の指標です。総資産回転率は、総資産の何倍の売上を上げているかを表す指標で、資産を効率良く売上につなげているかを見ます。財務レバレッジは、どれだけ外部からの負債を有効に活用しているかを表す指標であり、自己資本比率の逆数になっています。

ROEは財務レバレッジを高くすると上がるのですが、それは安全性を犠牲にしているともいえます。経営者は、このようなトレードオフの関係のバランスをどう取るかを考えながら、資金の調達方法についても熟考する必要があります。

また、こうして分解してみると、自社のROEと比較対象のROEとの差がどこに起因しているのかがざっくり理解できます。例えば、売上高当期純利益率が比較対象よりも高ければ、自社の収益性は優れているのだろうという仮説を立てることができます。ただ、それがどの顧客や商品などの収益性の高さに起因するのかは、これだけでは分かりません。ROEの分解は、「当たりを付ける」ためのものとお考えください。売上高当期純利益率が比較対象よりも高いなら、その収益性の高さがどこの利益で生み出されたのか詳細に見ていきましょう。

損益計算書の読み方-読み手はこう読む

「経営者が実践すべき損益計算書の読み方」で取り上げた4つの利益(売上総利益、営業利益、経常利益、当期純利益)のどこに収益性の高さの秘訣があるのか。さらに詳細に追いかけていくと、自社の強み、弱みが鮮明に見えてきます。例えば、売上総利益率に差があるのであれば、製品・サービスそのものの顧客が認める価値に違いがあるのでしょう。営業利益率に差があるのであれば、販管費の扱いに差があるのでしょう。経常利益率に差があるのであれば、財務面の体力に差があるのでしょう。ここまで分解して分析ができれば、例えば、ライバル会社に比べて劣っている部分、つまり経営課題が特定され、具体的な「打ち手」を考えることができるようになります。これこそが、経営戦略を研ぎ澄ます過程で求められることではないでしょうか。これで収益性の分析は完結します。

次は効率性ですが、ROEの分解で見えてくるのは、総資産回転率から分かる会社資産全体の効率性です。比較対象より効率性が悪いのなら、まず固定資産に稼働率の低いものがないかを確認しましょう。次に、日々のビジネスの効率性を確認します。「センスある経営者は貸借対照表から何を感じ取っているのか?」において、「商い」の効率性として取り上げた、売上債権、棚卸資産、仕入債務の各回転期間を見ましょう。

会社の「商い」状況を見る際のポイント

売上債権は早期に確実に回収できているか、棚卸資産は適正な水準に抑えられているか、仕入債務の支払いは十分に余裕を持っているかを見ていきましょう。これで効率性の分析が完結します。

最後は安全性です。財務レバレッジは自己資本比率の逆数だと説明しました。自己資本比率は、ビジネスに必要な資金を、どの程度返済義務のない資金で調達しているかを表すものなので、あまりに安全性を犠牲にしてROEを上げると、破綻リスクが増します。経営者は、どの程度の自己資本比率が心地のよい水準なのか、自社のビジネスの特徴を踏まえて熟考する必要があります。

流動比率も安全性を示す指標です。流動比率は「流動資産÷流動負債」で計算します。すぐに返さなければならない負債に対して、すぐに現金になる資産がどの程度あるかを示します。貸し倒れや棚卸の減耗などを考慮する必要はあるものの、100%を超えていればざっくり問題ないレベルといえます。

しかし、実は上場会社の多くは流動比率が100%を下回っています。100%を下回っていると、返済を求められたときに返せなくて困るのですが、流動比率が100%を切っている会社の経営者は、急に返済を求められないという自信があるのでしょう。もう1つ、そうした会社の経営者は金利が上がらないと思っているのかもしれません。100%を下回っているというのは、短期借入で長期にわたって使用する固定資産に投資をしている状況ですから、金利が上昇すると資金調達コストが上昇して大変なことになります。この点、金利が上がらないと考えているのであれば、一般に短期借入は金利が低いので支払利息の負担を軽減できます。経営者は金利や為替の動きに敏感であるとともに、相場観を持つことも必要です。

難しいように思われるかもしれませんが、会社の経営者でなくともこうした相場観で意思決定をすることがあります。例えば、住宅ローンです。返済期間35年で借りたのだけれども、金利は毎年見直しの変動金利にしている人が少なくないでしょう。これは当面金利が上がらず、足元の低い金利を享受しようというのが狙いです。「財務」の話と思うと難しい気がしますが、個人の生活においても、こうした相場観を持って意思決定する場面は多いのです。相場でもうけようと思ってはいけませんが、経営者は、自分なりのマクロ経済に対する見方を持っていなければなりません。

さて、ROEを3つに分解することで、会社の収益性、効率性、安全性を体系的に分析することができました。指標分析までやると、自社の強み、弱み、ビジネスの特徴、経営課題の抽出が容易になりますし、何よりもなぜそういえるのかの説得力が増します。

経営者がこうした計算を自ら行う必要はないと思います。どの指標から、どのようなことがいえるのかを理解すれば十分です。今回取り上げた各財務指標を、社内の担当者や顧問税理士などに計算してもらうといいでしょう。その際、最低3期分の指標を計算してもらって、今回の記事を横に置きながら、ご自身でその数字は何を意味するのか考えてみてください。なぜ、自社の資産回転率はライバル会社よりも低いのか、売上総利益率はライバル会社と同程度なのに営業利益率では劣るのかなどは、ビジネスのかじ取りをしている人でなければ解を見いだせませんし、その重要度もピンとこないのです。

経営課題を正確に抽出し、その経営課題を的確に解決するための経営戦略やプランを考え出すために、財務諸表の読み方および指標分析は武器になります。

次回以降は、打ち手としての経営戦略やビジネスプランの妥当性、有効性を検証するための事業計画の作成方法について、一緒に考えていきましょう。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年9月9日時点のものであり、 将来変更される可能性があります。

執筆者
グロービス経営大学院教授 松本 泰幸(まつもと ひろゆき)

九州大学法学部卒業。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。八重洲通支店・ユニオンバンク(米国加州の姉妹銀行)・営業第一部でコーポレートファイナンス、資本市場第二部・市場営業部でキャピタルマーケッツ業務、人事部で採用、企画部で企画、組織設計に携わる。その後、東京証券取引所一部上場の事業会社2社で財務部長、関連事業部長、外資系コンサルティングファームで金融サービスコンサルタントとして活動し、投資顧問会社・コンサルティング会社を傘下に持つHCAグループの設立に参画。現在は、農業経営コンサルティング業の株式会社日本アグリマネジメント、農業生産を行う株式会社みなみん里を設立し、各々代表取締役社長。他に経営コンサルティングを行う株式会社LonePine代表取締役社長。株式会社丸八ホールディングス非常勤取締役。グロービス経営大学院教授(アカウテンィング、ファイナンスなど)。

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