財務力を鍛えたい

2016年10月17日

財務指標分析(企業分析)~事業計画の作成方法

決算書 税務・財務・会計 資金調達

Concept image of making growth strategy.

財務力の基本-事業計画の作成

第5回までは、財務諸表の読み方、分析方法を取り上げてきました。最終回の今回は、いよいよ練りに練った戦略、ビジネスプランを定量化する事業計画の作成方法を取り上げます。

財務諸表の読み方、分析方法が理解できれば十分で、事業計画の作成は財務経理の担当者に任せればよいと考えている経営者がいたら、それは大間違いです。

事業計画とは、将来の財務諸表を予測することであり、これには2つの目的があります。1つは、経営者が練った戦略、ビジネスプランの妥当性、有効性を定量化し、もうかり具合や資金繰りの状況を検証することです。戦略を実行に移す前に定量化し、思っているようにもうかるのか、資金繰りは大丈夫かなど、徹底的にシミュレーションをしながら、戦略、ビジネスプランを磨き上げるのです。この作業は、戦略やビジネスプランを描いた経営者自身がやらなければ意味がありません。

もう1つは、事業計画の読み手に対して、ワクワクする物語としての戦略やビジネスプランに定量的な裏付けを与えることです。例えば、事業計画の読み手が取引銀行であれば、融資を決断させる、つまり、事業計画の読み手にアクションを起こさせることです。将来の予測財務数値に戦略やビジネスプランのワクワク感を語らせなければなりません。事業計画を正確に作成することも重要です。しかし、それ以上に取引銀行などは、経営者の熱く語る戦略が実行された場合、どう数字に表れると経営者が考えているのかを知りたいのです。販売単価を下げてシェアを取りに行くのか、販売単価を上げてブランド強化に励むのか、どうやって売上を成長させるつもりなのか、そのためにどのような活動を行うのか、それにはどの程度資金が必要なのかを、事業計画から読み取りたいと考えているのです。

過去の実績を横に伸ばしただけの売上(過去の成長実績から昨年度対比○%なんて無味乾燥な前提条件)で作成された事業計画は、正しく作成されていたとしても、読み手の心を動かしません。読み手のアクションを引き起こしません。事業計画の数字には経営者の思い、魂を吹き込まなければなりません。

ここからは、一般的な事業計画の作成手順を紹介した後、魂の吹き込め方に触れていきます。

事業計画の作成手順

事業計画の作成

事業計画の肝は何といっても売上です。どのようなお客様にどのような価値を提供するのかというビジネスの根本を表すのが売上ですから、ここは時間を掛けてじっくり検討してください。単純に昨年度対比○%ではなく、どの商品(サービス)をいくら(単価)で、どれくらい(量)売るのかについて、「単価×量」に分解して検討しましょう。値段を下げてたくさん売る、ブランド価値を守るため単価は絶対下げないなど経営者の思いが読み取れるポイントですね。

次に費用ですが、ここからは、売上を獲得するためにどのような活動を行うのかが読み取れます。いきなり費用を個別に見積もるのではなく、まずは売上に比例して変動する費用(=変動費)と、売上に関係なく発生する費用(=固定費)に分類しましょう。面倒な作業と思われるかもしれませんが、自社の固定費を思い浮かべてください。経営にインパクトのある規模で発生する固定費は、そう多くはありません。人件費、研究開発費、減価償却費、広告宣伝費などが代表的なものですが、それ以外にどのようなものがありますか? 細かいものを挙げ始めるときりがありません。経営にインパクトのある規模かどうかで細かいものは適宜その他固定費にまとめてみるとよいでしょう。減価償却費は過去に行った投資の延長線上にある後始末ですから、昨年度の実績に本年度の投資計画があれば見積もることができます。人件費は人員計画を立てれば見積もり可能ですね。

変動費は売上の○%という前提条件を設定すれば、売上が固まった時点で自動的に見積もることができます。

これで損益計算書は出来上がりです。次に貸借対照表に移りましょう。ここでも売上に比例して変動するものと、売上に関係なく変動するものを分けておくと、事業計画は作成しやすくなります。まず流動資産と有利子負債を除く流動負債ですが、代表的なものに売上債権、棚卸資産、仕入債務があります。これは運転資本関連の科目でしたね。皆さんの会社では、売上債権は何日で回収するとか、棚卸資産は何日分抱えているとか、滞留日数で管理されているのではないでしょうか。とすると、これらは売上の変化とともに変動するのですね。つまり流動資産と有利子負債を除く流動負債は、売上に比例して変動するものとして売上の○%と見積もればよいでしょう。次に固定資産ですが、これは売上とは別に投資計画で見積もる必要がありますね。このように、損益計算書も貸借対照表も売上に比例して変動するものと、売上に関係なく変動するものをあらかじめ分けておけば、事業計画の作成それ自体はそれほど難しいことではありません。

留意すべき事項を2点ほど述べます。1つは損益計算書の当期純利益が貸借対照表の純資産に利益剰余金として組み入れられるということ。ここで損益計算書と貸借対照表はつながっています。

もう1つは、将来の予測を項目ごとに立てていくので、貸借対照表の左右がバランスしなくなるということです。左右の数字をバランスさせるために、現金ないしは短期借入金で調整します。これ以外の科目で調整してはいけません。貸借対照表の一つ一つの科目について前提条件を置いて見積もった結果、負債、純資産の合計が多くなれば、資産の現金を増やしてバランスさせる、資産が多くなれば、負債の短期借入金を増やしてバランスさせることで調整します。おカネが余ったので現金が増えた、おカネが足りないのでおカネを借りたという具合です。

事業計画に魂を吹き込む作業

最後になりましたが、事業計画に経営者の魂を吹き込む作業について触れていきます。事業計画作成に当たっては、それぞれの科目の数字を見積もる際に前提条件を設定しなければなりませんが、これこそが魂を吹き込むポイントです。

経営者は、資金繰り改善のために売掛金の回収を早めようとか、最近景気が回復したこともあって客先からの引き合いが強いので在庫を多めに持つとか、仕入債務を早く支払って値引き交渉するとか、設備を増強しようとか、日々、いろいろなことを検討しています。こうした経営者が頭の中で考えている戦略、戦術を前提条件に盛り込んでいくことで経営者の思いが事業計画の読み手に伝わり、数字に魂を吹き込むことになります。

売掛金の回収を早めるのであれば、昨年度までは売上の○%程度であったが、回収条件を顧客と交渉して短縮を図ることで△%程度に抑える方法が考えられます。また、「引き合いの高まりを受けて在庫の水準を例年の売上○%から△%に引き上げる」「設備増強にどの程度予算を取りたいのか」「設備増強に伴い売上はいくら増える」など、具体的に前提条件を書き出して事業計画の数字の横に記述すると、事業計画の読み手は経営者が何をやろうとしているのか、その打ち手によって会社の数字がどの程度変化すると経営者が見積もっているのかを容易に読み解くことができます。

読み手は、数字もさることながら、その数字を置いた根拠を知りたいものです。また、その打ち手がどれほどの効果を生み出すのかを読み手自身も考え、その妥当性を評価し、アクションを起こすかどうか判断します。単純に過去の実績を横に伸ばしただけの事業計画には思いが入っておらず、読み手の心に響きません。思いを数字に込められるのは、戦略を描いた人、そう経営者しかいないのです。

実際に表計算ソフトに数字を打ち込み、会計ルールにのっとって正確に事業計画を作成するのは財務経理の担当者で構いませんが、前提条件を決めるのは戦略立案者でなければなりません。この前提条件を置くところまでが経営者の責任範囲なのです。

さて、全6回にわたって連載してまいりました。財務諸表を読むことで、戦略の進捗状況を定量的にモニタリングし、自社の経営課題、強み弱みを数字の裏付けをもって確認し、戦略を修正するという一連のPDCAサイクルの精度を上げることにご活用いただければ幸いです。

また、戦略の妥当性、有効性を検証するために財務予測を行い、戦略を磨き上げ、取引先、銀行などの投資家にアクションを起こさせるような魂のこもった事業計画を作成いただければと思います。

経営力、資金調達力が会社の価値を大きく左右する昨今、財務力によって経営者の皆様の経営力、資金調達力向上に本稿が資すればありがたく思います。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年10月14日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
グロービス経営大学院教授 松本 泰幸(まつもと ひろゆき)

九州大学法学部卒業。東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行。八重洲通支店・ユニオンバンク(米国加州の姉妹銀行)・営業第一部でコーポレートファイナンス、資本市場第二部・市場営業部でキャピタルマーケッツ業務、人事部で採用、企画部で企画、組織設計に携わる。その後、東京証券取引所一部上場の事業会社2社で財務部長、関連事業部長、外資系コンサルティングファームで金融サービスコンサルタントとして活動し、投資顧問会社・コンサルティング会社を傘下に持つHCAグループの設立に参画。現在は、農業経営コンサルティング業の株式会社日本アグリマネジメント、農業生産を行う株式会社みなみん里を設立し、各々代表取締役社長。他に経営コンサルティングを行う株式会社LonePine代表取締役社長。株式会社丸八ホールディングス非常勤取締役。グロービス経営大学院教授(アカウテンィング、ファイナンスなど)。

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