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「論語」で極める上司道。部下がついていきたくなる上司になる

経営者としての見識を深めたい 2016年3月11日

あなたは部下の目に魅力的なリーダーとして映っていますか?

組織(会社)におけるリーダーの役割は、「目標の設定と達成を繰り返しながら、組織を持続的に成長させること」です。リーダーには、これを実行するための権限が与えられていますが、自分本位に権限を振りかざすだけでは、部下はついてきてくれません。リーダーは、部下から支持される存在になる必要があります。

「リーダーは信頼できる。あの人についていこう」
「リーダーは尊敬できる。もっと力になりたい」

リーダーは高い業務遂行能力を備えており、部下に対して大きな影響力を持っています。しかし、リーダーが一人でできることは限られます。もし、部下が一人も出社してこなかったらどうなるでしょうか。リーダー一人では、ほとんどの業務を遂行することはできません。リーダーは、自分に協力してくれるフォロワー(支持する部下)があってこそのリーダーなのです。

また、多くのリーダーが「思うように部下が育たない」「なぜ、こんなに簡単なことが分からないのか理解できない」など部下に対して不満を抱く一方で、周囲から支持されるリーダーの下には、「リーダーの考えを正しく理解した上で、リーダーが期待する以上の成果を上げてくれる部下」や、「リーダーとは異なる視点から物事を分析し、進言してくれる部下」がいます。この違いはどこから出てくるのでしょうか。部下は、能力があるという理由だけで、このような働きをしているわけではありません。有能であることに加え、「尊敬するリーダーに認められたい」「リーダーが困っているので力になりたい」という思いを持っているからこそ、本気で頑張ってくれるのです。

つまり、リーダー自身が部下に支持される魅力的なリーダーになれば、部下は本気で頑張ってくれるようになり、リーダーの不満は解消されます。それだけでなく、頼りになる部下の協力を得ながら、リーダーはリーダーとしての活動に集中し、より大きな成果を上げることができるのです。

本稿では、部下の立場から見た魅力的なリーダーを目指すための考え方について紹介します。

魅力的なリーダーとは?

個々には異なるものの、部下の立場から見た魅力的なリーダーのイメージは「仕事力(業務を遂行する能力)」「人間力(人格などの魅力)」「努力(目的を実現するために地道に励む力)」などを備えた人だといえるでしょう。また、仕事力や人間力は、双方いずれかに偏ったものではなく、バランスよく兼ね備えていることが求められます。

「尊敬するリーダーに認められたい」「リーダーが困っているので力になりたい」といった、リーダーに対する部下の尊敬や忠誠心は、リーダーの能力はもちろんのこと、人間力に対する評価が大きな影響を及ぼします。例えば、以下のような言動を取るリーダーは、部下から人間力が高いと評価されるでしょう。

  • 私利私欲で行動しない
  • 自分の誤りを認めて、正すことができる
  • 大所高所から指示するだけではなく、部下の置かれた立場も理解しようと努める

上記に挙げたのは一例ですが、こうした日々のリーダーの言動が積み重なって信頼が醸成され、部下からの支持へとつながります。

とはいえ、「これさえやれば、部下から信頼され、リーダーとしての魅力が備わる」といった正解があるわけではなく、リーダー自身で試行錯誤しながら行動していくしかありません。その際にリーダーの参考になるのが、中国古典の「論語」の教えです。「論語」は古くから多くのリーダーに親しまれており、ビジネスシーンにおいても、渋沢栄一「論語と算盤」にみられるように、著名な経営者やビジネスリーダーの多くが愛読書として挙げています。それは、「論語」にリーダーシップを考える上で多くのヒントが説かれているからです。

「論語」とリーダーシップ

1)リーダーに必要な「仁」

「論語」において、大きなテーマになっているのが、孔子(こうし)が目指した「最上の人間性である『仁』」(*)についてです。仁とは、「思いやり」や「いつくしみ」を表すとされています。

弟子である子張(しちょう)から仁について聞かれた孔子は、以下のように答えています。

「子張、仁を孔子に問う。孔子曰わく、能く五つの者を天下に行なうを仁と為す。
これを請い問う。曰わく、恭寛信敏恵なり。
恭なれば則ち侮られず、寛なれば則ち衆を得、信なれば則ち人任じ、
敏なれば則ち功あり、恵なれば則ち以て人を使うに足る。」(*)

孔子は仁に至るための心掛けとして、恭・寛・信・敏・恵の5つを挙げており、これは次のように訳すことができます。

  • 恭:慎み深くしていれば、人から侮られない
  • 寛:人に寛容で心が広ければ、人々の心を得ることができる
  • 信:言行が一致して誠があれば、人から信頼され仕事を任される
  • 敏:機敏に実行するなら、功績があがる
  • 恵:他人に財を分け与えるなら、うまく人を使うことができる(*)

一見すると、これらは当たり前の心掛けに思えます。しかし、いつ、何時でも実践できている人はそう多くはないのではないでしょうか。そして、恭・寛・信・敏・恵を当たり前のこととして実践できる人こそ、部下から支持されるリーダーにふさわしいといえるでしょう。

以降では、恭・寛・信・敏・恵の5つのキーワードを参考に、魅力的なリーダーとしての心構えと行動について考えてみます。

2)5つの要素にみるリーダーシップのエッセンス

恭:慎み深くしていれば、人から侮られない

部下に対して必要以上に気遣いをしたり、へりくだることはありません。しかし、「上司には必要以上にへりくだった態度なのに、部下には横柄な態度を取る」といったように、相手によって態度をころころと変えるリーダーでは、部下が信頼を寄せることはありません。部下を含めて、どんな人に対しても、謙虚な姿勢で接することを心掛けたいものです。
リーダーは、これまで多くの経験を積み、豊富な知識を養ってきています。こうした経験と知識は日ごろのリーダーの活動の拠り所になります。ただし、自分の養ってきた経験や知識に固執してはいけません。定期的に、上司、同僚、部下から自分とは異なる視点での考え方を聞き、必要に応じて取り入れる必要があります。これらの人は皆、「自分が見えていなかったことを気付かせてくれ、知らないことを教えてくれる師」なのです。このことを忘れずに、謙虚な姿勢で人と接しましょう。部下から教わることも多いものです。

寛:人に寛容で心が広ければ、人々の心を得ることができる

寛容とは、相手の過ちを許すといった意味がありますが、これは部下の過ちを看過するということではありません。リーダーは必要に応じて、部下を注意したり、叱ったりする必要があります。ただし、その方法を工夫しましょう。例えば、部下が一生懸命に努力したにもかかわらず、結果的に失敗してしまった場合は、失敗という結果だけに目を向けて注意するのではなく、努力したプロセスについては、褒めて部下の意欲を引き出すようにしましょう。

一方、一生懸命に努力した結果の失敗ではなく、部下が注意を怠ったり、周囲の意見を聞かずに自分勝手な行動を取ったことによって失敗した場合などは、リーダーはきっちりと部下を注意したり、叱ったりする責任があります。その場合も、叱り方によっては部下の意欲をそいでしまう可能性があります。部下を叱る際は感情的になって「怒る」ことがないようにし、「普段はできている仕事で注意を怠ったことからミスをした場合」など叱る基準を明確にしておき、部下とその基準を共有しておくとよいでしょう。叱る基準が理解できれば、部下は納得感を持ってリーダーの言葉を聞くことができます。

信:言行が一致して誠があれば、人から信頼され仕事を任される

リーダーの発言と行動が一致していなければ、部下は「リーダーは口だけの人」だと感じて、信頼を寄せることはありません。リーダーは言行が一致することを意識しましょう。また、組織として成長するためには、高いレベルの目標を達成する必要があり、リーダーは部下に厳しい要求をすることがあります。こうしたときこそ、リーダーは言行一致だけではなく、部下の模範となるように率先垂範の精神で、誰よりも先に行動することを心掛けましょう。

リーダーが先頭に立って難しい課題に挑戦する姿勢を示すことで、「リーダーは要求するばかりではなく、部下と一緒に困難に立ち向かおうとしている」と部下は感じます。その結果、部下は意欲的に仕事に取り組み、組織として高いレベルの目標を達成することができます。こうした経験はリーダー自身の成長にも寄与することでしょう。

敏:機敏に実行するなら、功績があがる

新規事業の立ち上げなど、組織にとって重要な決断を下し、それを促すのはリーダーの大切な役割の一つです。しかし、リーダーは自らの決断が組織の将来に影響することを考えて迷いが生じ、なかなか決断に踏み切れないことがあります。そのようなときでも、リーダーは、決断においてスピードは重要な要素の一つであるということを忘れてはなりません。機敏な行動であれば時間的な余裕が生まれ、問題が生じた場合の軌道修正も比較的容易になります。

例えば、新規事業の推進プランで迷った場合、「私が責任を取るので、プランAの計画を進めよう」とリーダーが責任の所在は自分にあることを明確にし、スピーディーに決断を下せば、部下は安心して自らの役割を果たすことができます。そもそも、計画とは当初予定していた通りに進まないことが多いものです。慎重になり過ぎると時機を誤ってしまうこともあります。また、リーダーの決断に時間が掛かる場合、部下は不安に駆られたり、モチベーションの低下につながることも考えられます。

恵:他人に財を分け与えるなら、うまく人を使うことができる

一般的に、財とは富や宝の意味で使用されますが、財=価値のあるものと解釈した場合、業績や業務上での評価といったものも当てはまるのではないでしょうか。仮に新規のプロジェクトを進めていた場合、リーダーはそのプロジェクトの責任の多くを負うことになります。そのため、プロジェクトが失敗したときはその責任を追及される半面、成功したときは周囲からの評価や注目はリーダーに注がれることになります。

リーダーには評価を独り占めする気はないかもしれませんが、部下が「リーダーはプロジェクトがうまくいっても全然いたわってくれない」と不満を感じることがないように注意しなければなりません。リーダーは周囲から高い評価を得たときこそ、普段以上に部下に対して日ごろの感謝を表し、部下と評価を分け合うことを心掛けましょう。チームの失敗やミスは自分の評価として受け取り、成功やよい評価は部下の評価とする姿勢を見せることが、部下の信頼を獲得することにつながるでしょう。

おわりに~部下を指導する前に、自分を修める~

リーダーは「部下時代に指導してもらった尊敬する上司」など、自身の目指すリーダー像に照らし合わせて、不足していると感じる素養を磨いていきましょう。魅力的なリーダーになるためには努力が必要です。自分の身を修める(正しい言動を取る)ことができない人が、部下を指導したり、束ねたりすることは難しいでしょう。「論語」においても、次のような言葉があります。

「己を脩めて以て百姓を安んず」
(自分の身を修めて、それが人民すべてを安定させる)(**)

孔子は、君子(仁が備わった人)にとって、自分の身を修めることが、人民を安定、安心させることにつながると説いています。それに加えて、多くの人に手本とされるような人であっても、己の身を修めることは難しいとも続けています。この言葉からも、自分の身を修めるということは、リーダーにとって当たり前のことのようで、その実多くの人にとって簡単なことではないといえるでしょう。リーダーは大きな責任があり、大変だと感じることもあります。一方、リーダーは大きな権限を与えられています。それを行使して組織の成長に貢献することができるといった、リーダーならではのやりがいもあります。ただし、「リーダーの権限とは責任と表裏一体であり、同時に自分を支持する部下の存在があってこそである」という点を決して忘れてはいけません。リーダーだからと過度にプレッシャーを感じたり、虚勢を張ったりするのではなく、「自分はまだまだ未熟であり、部下とともに成長していこう」と自然体に構えて、リーダーとしての役割を楽しみながら部下と向き合うことで、リーダーとしても、人としても成長することができるでしょう。

【参考文献】
(*)「声に出して読みたい論語」(齋藤孝、草思社、2011年3月)
(**)「論語を知らなくても使えるビジネス『論語』活用法」(小宮一慶、三笠書房、2011年11月)

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年2月29日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
日本情報マート

中小企業の頼れる情報源として、経営者の意思決定をサポートするコンテンツを配信。 「開業収支」「業界動向」「朝礼スピーチ」など2000本を超えるコンテンツを有するほか、年間200件以上の市場調査も行っている。現在、50を超える金融機関に情報提供を行っている。

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