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中小企業の事業承継。失敗しない後継者選び

経営者としての見識を深めたい 2020年4月17日

進めていますか? 事業承継対策

オーナー企業では事業承継は大切な経営課題です。もし、事業承継がうまくいかなければ、人生を懸けて築き上げた会社の存続が危ぶまれてしまいます。「事業承継には10年かかる」といわれることもあるように、事業承継対策には相応の時間が必要です。「事業承継なんて、まだ先のこと」などと思わずに、早くから事業承継対策を進めていかなければなりません。

本稿では、事業承継のスタートラインである後継者探しから、経営の承継までのポイントを紹介します。

後継者を決める

後継者には誰もがなれるわけではありません。会社を率いていくためには、リーダーシップ、コミュニケーション力、経営計画立案力、営業力など、さまざまな能力が必要です。また、いわゆる“仕事ができる”というだけではなく、「どんなに苦しいことがあっても、乗り越えてみせる」といった強いマインドもなければなりませんし、社員や取引先など、社内外の関係者から信頼の得られるような人間性も必要です。

こうした“完璧な人材”は、いないかもしれません。しかし、少なくとも経験豊富なオーナーが見て、「この人になら、会社の将来を託すことができる」と思える人を選び育てることが大切です。そのためには、会社の内外を問わず「誰が最も後継者にふさわしいか」という視点で、次の3つを検討するようにしましょう。

1)親族内承継

オーナーが後継者の候補として第一に考えるのが親族、中でも子供でしょう。親族内承継は、比較的周囲の納得も得られやすいというメリットがあります。親族内承継のポイントは、本人が「本気で経営を引き継ぐ気があるか」と「経営者に向いているか」という点になります。

2)親族外承継

親族に適任者がいない場合には、経営幹部などに事業を承継させるのも1つの方法です。今までの実績があり、会社の事情にも明るいので、経営面についてはスムーズに承継することができます。

親族外承継のポイントは、本人の意向に加えて「他の役員・社員、取引先など利害関係者の同意が得られるか」、そして、MBO、LBOなどの方法により会社の所有権を譲ることになるので、「自社株を引き受けるだけの資力があるか(資力をつくれるか)」です。

なお、MBOとは、経営陣が自ら会社の株式・事業などをその所有者から買収することをいい、LBOとは、M&A(合併、買収など)の形態の1つで、借入金を活用した企業・事業買収のことをいいます。

3)第三者へのM&A

親族内・親族外に適任者がいないときは、M&A(合併、買収など)によって会社を第三者に売却して経営を任せることになります。この場合のポイントは、「良い買い手が見つかるか」「売却価格に折り合いがつくか」、さらには「社員の雇用が継続されるか」です。

後継者教育する

1)後継者をどこで育てるか

1.社内で育てる
社内で実務などを行いながら経験を積ませ、育成する方法です。社外で人に使われる立場にいると習得できない知識、経験を積むことができたり、社内でオーナーの背中を見ながらマネジメントを覚えられるというのが大きなメリットです。

ただし、社内で後継者を育てるのは難しい点もあります。例えば、身内であるが故に甘やかしてしまったり、逆に厳し過ぎてしまったりすることもあります。また、将来オーナーになる人に対して厳しく指導できる社員は少ないでしょう。こうした問題があるため、十分な育成ができないこともあるようです。

2.社外で育てる
別の会社で就業経験を積ませ、育成する方法です。大企業と中小企業では組織における一社員の役割や位置付け、あるいは組織構造やマネジメントの方法など、あらゆる点で違います。ですから、社外で育てるのであれば、自社と同規模の会社、それもなるべく厳しいとの定評がある会社が望ましいでしょう。ただし、こうした会社であっても、関連会社や取引先など、オーナーの知り合いが多いと“お客様”として扱われてしまい、十分な教育を受けられない可能性があるので、慎重に検討しましょう。

2)社内で育てるときのポイント

1.時間をかける
中小企業の経営者は仕入れ、製造、販売、人事労務、税務会計など幅広い知識と経験が必要です。また、会社の全体像や現場の実情を知ることも不可欠です。そのためには、会社のさまざまな部署を経験することが大切かもしれません。こうした時間を確保するためにも、オーナーは後継者をできるだけ早く決めて教育をすることが大切です。

2.教育係をつける
社員が遠慮してしまって、後継者が十分な経験が積めないといったことでは意味がありません。そうならないためには、教育係を指名して、早い時期から経営者としての仕事の考え方を学ばせることも一案です。事業承継では、後継者と先代からの幹部社員とのあつれきが問題になることがありますが、幹部社員を後継者の教育係にすると、良好な人間関係を築く上でも、効果が期待できます。

後継者への引き継ぎ

後継者への引き継ぎは、「代表の座(仕事)の移転」と、「経営権(自社株など)の移転」の2つの内容が含まれます。事業を引き継いだ後継者が安定的に経営を行うためには、自社株や事業用資産を後継者に集中させて引き継ぐことが必要です。

1)代表の座(仕事)の移転

「代表の座(仕事)の移転」とは、名実ともに代表取締役としての地位を譲ることです。このとき、よくあるのが、新しい経営者が自分の独自色を出そうとして、次々と先代とは違う新しいことを始め、社内外が混乱してしまうということです。そうならないようにするためには、先代と後継者が経営者として並走できる期間を設けることです。後継者をオーナーがフォローすることで、過度な混乱を避け、後継者が新しいことにチャレンジできるはずです。

並走期間を設けるためには、何より大切なのはなるべく早くから事業承継を進めることです。先代が高齢になってからでは、後継者のフォローもままならなくなるので注意しましょう。ましてや事業承継前にオーナーが突然の事故で亡くなってしまったり、認知症を発症してしまったりすると、社内の重要な意思決定が行われなくなり、最悪の場合は事業を継続することができなくなる恐れもあります。

2)経営権(自社株など)の移転

安定した経営のためには、後継者が単独で会社の重要事項を決定できるよう2分の1以上、できれば3分の2以上の議決権(自社株)を集約しておくようにしたほうがよいでしょう。また、土地、建物などの経営者の個人資産を会社が利用している場合は、こうした資産も後継者に承継しておきたいところです。また、経営者に子供が複数いる場合には、いわゆる「争続」対策のために、後継者と、自社株や事業用資産以外の財産を相続することとなる「後継者以外の子供」との間の、相続時の分割バランスを取る配慮も必要です。

後継者への資産の移転の方法は主に次の3つとなります。

  • 生前贈与→贈与税
  • 売買→譲渡所得税・住民税
  • 相続→相続税

それぞれのケースで課される税金の種類が違うので、税金のことも知っておかなくてはいけません。相続税の最高税率は55%であり、優良な中小企業の株式の評価額は思っている以上に高額となっていることも多く、何も対策を取らずに相続してしまうと相続税の負担が重くなってしまいます。

相続税が原因で会社にいろいろな制約が生じないよう、専門家と相談しながら早めの対策を行いましょう。

以上
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2020年3月1日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
日本情報マート

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