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中小企業の事業承継。事業承継と相続

経営者としての見識を深めたい 2020年4月28日

事業承継と相続の問題

会社のオーナーには経営者としての立場と、個人としての立場があり、事業承継にはそれぞれの立場で異なる問題があります。

経営者の立場としては、経営権の承継の問題があります。事業承継では、会社のオーナーの座を移すことに加えて、経営権(自社株式など)を円滑に承継させることが不可欠です。

一方、個人の立場としては、相続問題があります。相続が発生すると、自社株式がオーナー自身の財産として評価されます。そのため、相続人間のもめ事が経営に影響を与えることもあります。

事業承継対策は、双方の問題を解消できる方法を検討する必要があります。

経営者の立場としての問題とその対策

1)経営の安定化のためには

株式会社の場合、会社法上、定款の変更や役員の選任といった経営に関する重要事項の決定には、株主総会での承認が必要です。もし、オーナーやオーナーと意思を同じくする家族や役員などの株主だけで承認に必要な議決権割合を確保できていないと、オーナーや取締役会で重要事項を決定しても株主総会で承認が得られない可能性があります。

従って、後継者が会社の重要事項を決定できるように株式(議決権)を集約し、経営の安定を図る必要があります。

そのためには、理想は議決権の2/3以上を確保する、つまり社外株主(オーナーと意見を異にする可能性のある株主)に議決権の1/3超を保有させないことです。それが難しい場合でも、最低限、議決権の1/2超は確保することが重要です。

また、オーナーの個人所有の土地や建物などを会社が賃借して事業に使用しているなど、経営上重要な個人所有の財産(自社株式以外)がある場合には、これらも後継者に承継しておいたほうが経営の安定化につながります。

2)株式の集約・分散防止対策

株式の集約・分散防止を図る方法の1つに、種類株式の発行があります。会社は定款に必要事項を定めることで、権利の内容が異なる株式を発行することができます。これを種類株式といいます。現在、発行が認められている種類株式の概要は次の通りです。なお、種類株式を新たに発行する場合は株主総会の特別決議、既に発行している株式を種類株式に変更する場合は全株主の同意が、それぞれ必要になります。

種類株式の概要

これらの種類株式をうまく活用することで株式の集約・分散防止を図ったり、事業承継直後の未熟な後継者の議決権行使を抑制したりすることができます。

例えば、株主が株式を譲渡や贈与しようとするときに、会社の承認が必要となる譲渡制限株式を発行することで、株式が譲渡や贈与によって分散してしまうことを防ぐことができます。

ただし、相続や合併などの一般承継による取得にはこの制限が適用されません。そのため、相続や合併などにより譲渡制限株式を相続した株主に対して、会社がその株式の売り渡しを請求できる旨を定款に定める必要があります。なお、この売渡請求は相続などがあったことを知った日から1年以内に株主総会の特別決議を経て請求しなければなりません。

オーナー個人の立場としての問題とその対策

1)「争族」の原因

通常、相続が発生すると相続人全員で遺産分割協議を行い、分割の内容を記した遺産分割協議書に署名押印をし、相続した財産の名義変更を行います。この分割協議は相続税の申告期限(相続発生後10カ月)以内をめどとして行われます。しかし、相続する財産を巡って争いが生じるなど、いわゆる「争続」に発展してしまうこともあります。特にオーナーの場合は相続財産の多くを自社株式や事業用資産が占めることが少なくありません。そのため、自社株式や事業用資産を後継者に集約しようとすると、他の相続人に十分な相続財産を残せないということが問題になる場合があります。

2)遺言の種類

「争続」を避けるためには、遺言の作成を検討してもよいでしょう。遺言の作成方法は次の3種類がありますが、遺言の法的効力に影響を与えるような要件の不備を避けるため、「公正証書遺言」の作成をお勧めします。

1.公正証書遺言
公正証書遺言とは、遺言者が証人2人以上の立ち会いの下、公証人の面前で、遺言の内容を口授し、それに基づいて公証人が遺言者の意向を文章にまとめた書面を作成するものです。専門家である公証人が遺言を作成するため、要件の不備で遺言が無効になるのを避けることができます。また、原本が公証役場に保管されるため、遺言書が破棄されたり、隠匿や改ざんされたりする心配もありません。

2.自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言者が自筆で遺言内容の全てを書くものです。比較的手軽に作成できるというのはメリットですが、内容に不備があれば遺言が無効になってしまうので、法律などに熟知している人でなければ、自筆証書遺言による遺言書の作成は避けたほうが無難でしょう。また、相続開始後、家庭裁判所による遺言の検認を受けなければならないので注意しましょう。

なお、民法改正により、財産目録については自筆ではなく、パソコンでの作成も可能になりました(2019年1月13日施行)。また、法務局に遺言書を保管する制度が創設され、その遺言書については、家庭裁判所の検認も不要となります(2020年7月10日施行)

3.秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言者が遺言の内容を記載した書面に署名押印をした上で、これを封じ、遺言書の押印と同じ印章で封印し、公証人および証人2人の前にその封書を提出し、自己の遺言であることを証明してもらう方法です。書面への記載は、自筆である必要はなく、パソコンなどを用いても、第三者が筆記したものでもかまいません。遺言の内容を誰にも明らかにせず秘密にすることができますが、公証人がその内容を確認することはできません。そのため、自筆証書遺言と同様、要件に不備があれば遺言全体が無効になります。また、家庭裁判所の検認も必要になります。

3)遺留分

民法では遺言の内容にかかわらず、相続人の最低限の相続分を保障するために「遺留分」が定められています。

遺留分は、相続人のうち、配偶者、子、直系尊属に認められており(兄弟姉妹は対象外)、その割合は法定相続割合の1/2(直系尊属のみが法定相続人のときは1/3)です。なお、遺留分算定の基礎となる財産は、相続開始時点で被相続人が有していた財産の価額に、生前贈与した財産のうち、相続開始前1年以内に贈与した一定の財産の価額を加算し、債務を控除した金額となります。ただし、相続人に対する生前贈与は特段の事情がない限り、相続開始前10年以内(2019年6月30日以前に発生した相続については無期限)の贈与について、遺留分算定の対象となります。

4)遺留分侵害額請求権

オーナーが遺言を作成し、後継者に対して自社株式や事業用資産を集中して相続させたり(遺贈)、生前贈与したりすると、他の相続人の「遺留分」を侵害する場合があります。

遺留分を侵害された相続人は、遺贈や生前贈与を受けた後継者に請求して遺留分を取り戻す権利が認められています。これを「遺留分侵害額請求権」といいます。

遺留分侵害額請求の例は次の通りです。

遺留分減殺請求の例

遺留分侵害額請求権を行使された後継者は、遺留分に相当する金銭を支払わなければならないため、多額の資金調達を強いられる可能性があります。

5)遺留分に関する対策

遺留分の問題への対策として中小企業経営承継円滑化法に基づく特例を活用するのも一案です。

中小企業経営承継円滑化法では、一定の要件を満たす中小企業者の後継者が、オーナーの遺留分を持つ権利者全員と合意を行い、所要の手続きを経ることで、「除外合意」と「固定合意」という特例の適用を受けることができます。

除外合意とは、後継者がオーナーからの贈与により取得した自社株式の全部または一部について、その価額を、遺留分を算定するための価額に算入しない旨を合意することをいいます。除外合意により、後継者が贈与を受けた株式について他の相続人が将来、遺留分を主張することができなくなるため、株式の分散を防げます。

固定合意とは、後継者がオーナーからの贈与により取得した自社株式の全部または一部について、遺留分を算定するための財産の価額に算入すべき価額を当該合意時における価額とする旨を合意することをいいます。固定合意により、将来の遺留分侵害額請求権に対応した価額を合意時点の価額に固定することができ、将来の相続発生に備えての資金対策などが立てやすくなります。

以上
(監修 辻・本郷税理士法人 税理士 安積健)

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2020年3月1日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
日本情報マート

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