健康経営®のコラム

2017年6月12日

経営者に知ってほしい健康経営/第3回 従業員の健康と企業リスク

健康経営®

労働契約の基本は、提供された労働力に対して適正な賃金を支払うことですが、現代社会では、さらに労働力を提供する「人」の健康に対する配慮が必要不可欠となっています。「労働は、商品ではない。」と国際労働機関の宣言にもあるように、労働によって商品は作られますが、その労働は商品ではないのです。

労働契約法第5条は「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と、企業の安全配慮義務について規定しています。罰則はありませんが、使用者の義務違反に基づく従業員の健康障害は労働契約上の違反となり、損害賠償の対象となります。

また、業務に起因する健康障害は労働災害となり、さらに企業の注意義務がなされていなければ損害賠償の対象となります。一方、労災保険は、企業に過失がなくても、労働災害においては、労災補償(無過失責任)がなされます。

昨今は、長時間労働による脳・心臓疾患のみならず、メンタルヘルス不調もまた、業務起因性があるとして労災申請件数が増加していることが、厚生労働省の発表で明らかになっています。労働の量(時間)のみならず、質(精神的緊張、ストレス等)に対しても企業の対応が求められているのです。

特に、メンタルヘルスにおいては、管理監督者のラインケア(部下の心理的ストレスに対する配慮やメンタルヘルス不調の早期発見並びにその適切な対応)が求められるようになっています。管理監督者に対するメンタルヘルスに係る研修は、今や企業活動において必須のものといえるでしょう。

安全配慮義務には、危険予知義務と、結果回避義務が必要ですが、基本となる健康に対するリスク評価ができないと健康障害が起こり得る可能性が大きくなります。経営者をはじめ部下を持つ管理監督者の全ての人に、心身の健康に関する知識が必要不可欠となっています。例えば、神戸地裁姫路支部は「過重労働をすれば、労働者の健康が悪化するおそれがある、という抽象的な危惧が予見し得たならば予見可能性は肯定される」(平成23年2月28日判決)と判断しています。

一方、従業員が健康で、元気で職務を遂行できることは、経営者と従業員の両者がwin-winの関係を構築することとなり、結果として企業リスクを低減することになります。従業員の労働生産性と創造性の向上は、従業員が健康で、元気であることが条件であることは言うまでもありません。

健康経営は、企業が従業員の健康に配慮することで、企業に内在する種々のリスクを低減させることにあります。その結果、社会的存在としての企業の価値が高まることになります。人の力で企業が創造されることになりますが、その基盤となる人が健康であることが企業存続の必須の条件であることは、いつの時代であっても同じではないでしょうか。「百年企業」の礎は人が築いたものであることは疑う余地もないでしょうから。

以上

※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。
※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2017年6月5日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長 岡田 邦夫(おかだ くにお)

岡田先生

大阪市立大学大学院医学研究科卒業後、大阪ガス株式会社産業医、健康開発センター健康管理医長を経て平成8年より同社統括産業医に就任。特定非営利活動法人健康経営研究会理事長、プール学院大学教育学部客員教授健康スポーツ科学センター長、厚生労働省「職場のメンタルヘルス対策検討委員会」委員、文部科学省「教職員のメンタルヘルス対策検討会」委員、厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員、厚生労働省「労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会」委員などを歴任。
「健康経営のすすめ」社会保険研究所(共著)、「新版 判例から学ぶ従業員の健康管理と訴訟対策ハンドブック」法研(編著)、「これからの人と企業を創る健康経営」社会保険研究所(共著)、「健康経営推進ガイドブック」経団連出版、「ストレスチェック導入・運用サクセスガイド」メディカ出版など著書多数。
その他、大阪府医師会「健康スポーツ医学委員会」副委員長、一般財団法人大阪陸上競技協会理事、医事部部長、大阪マラソン医事・救護専門部会委員長、独立行政法人労働者健康福祉機構大阪産業保健総合支援センター産業保健相談員、日本医師会健康スポーツ医学委員会委員など。

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