健康経営®のコラム

2018年8月15日

経営者に知ってほしい健康経営/第17回 労働生産性向上と栄養-現代社会に求められるもの

健康経営®

1993年、ノーベル賞受賞講演において、フォーゲル教授は、英国における1790年から1980年の間の1人当たりの労働生産性の向上の30%は、栄養によって説明できる、と発表した。栄養状況の改善が、免疫力を高め、感染症を予防し、病気による労働生産性の減少を予防したことが寄与しているように思われる。食糧事情が好ましくない時代には、食物の供給が空腹感を満たせるまでに至れば、健康状況も改善したのであろう。果たして、現代社会において、何が労働生産性に影響を及ぼすのであろうか。

わが国の労働生産性は、国際的には20位前後を推移しており、決して高いとはいえない状況である。短時間睡眠で長時間労働であるにもかかわらず、労働生産性は先進国の中では最下位である。労働時間当たりで労働生産性を算出すると、長時間労働は不利であるが、労働時間を短くして労働生産性を上げれば、長時間労働や短時間睡眠による健康障害は予防できることになる。

わが国において労働生産性を高めるためには、労働時間を短くして、睡眠時間を長くすることかもしれない。労働生産性と働く人の健康をてんびんに掛けることはできないが、睡眠の質を改善し、量を増やすことで、労働の質が向上し、今まで残業して締め切りに間に合わせていた業務が、もしかすると残業をしなくても完成するのかもしれない。

働く人の睡眠の質は、わが国においては、高いとはいえない状況にある。若い人たちは、朝食をとるより1分でも多く寝ることを選択し、日中の眠気を我慢して仕事を継続することが多い。起床後の眠気やだるさ(睡眠慣性または睡眠酩酊(めいてい))は、午前中の仕事の効率を低下させ、時に午後にまで影響が及ぶことがあり、運転中の眠気を引き起こすことで事故に直結する重大な健康問題である。

一度、わが国において、週4日制で、1日は健康づくりを業務とする日を設定して、その効果測定をしてはどうであろうか。ランド研究所は、日本の不十分な睡眠による経済的損失は年間1380億ドルと算出している(2016年)。経営者の皆さんはこの額をどのように考えるのであろうか。

一方、職務不適応が結果としてメンタルヘルス不調に結びつくようになっている。その結果、睡眠障害が多くの場合出現してくる。不安感が増大すれば、寝つきが悪くなることは誰しもが経験することである。仕事ができないのであれば、上司や同僚が直接指導もしくは支援して仕事を完遂することになるが、現代社会では、個々の業績が評価されるので、部下のこと、同僚のことまで十分支援するどころではなさそうである。結果は、恐らく誰しも、というよりは、自分自身で不安や心配を抱えながら仕事をすることになるのであろう。栄養が充足してはいるが、しかし、睡眠負債を抱えている労働者は多い。

さて、このような状況は、医療職で解決できるのであろうか。相談に対応した医師は、単に睡眠薬を処方して睡眠時間を増やせば、従業員の心身のストレスが解消され、元気に働くことが可能になるのだろうか。

以上

※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年7月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長 岡田 邦夫(おかだ くにお)

岡田先生

大阪市立大学大学院医学研究科卒業後、大阪ガス株式会社産業医、健康開発センター健康管理医長を経て平成8年より同社統括産業医に就任。特定非営利活動法人健康経営研究会理事長、プール学院大学教育学部客員教授健康スポーツ科学センター長、厚生労働省「職場のメンタルヘルス対策検討委員会」委員、文部科学省「教職員のメンタルヘルス対策検討会」委員、厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員、厚生労働省「労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会」委員などを歴任。
「健康経営のすすめ」社会保険研究所(共著)、「新版 判例から学ぶ従業員の健康管理と訴訟対策ハンドブック」法研(編著)、「これからの人と企業を創る健康経営」社会保険研究所(共著)、「健康経営推進ガイドブック」経団連出版、「ストレスチェック導入・運用サクセスガイド」メディカ出版など著書多数。
その他、大阪府医師会「健康スポーツ医学委員会」副委員長、一般財団法人大阪陸上競技協会理事、医事部部長、大阪マラソン医事・救護専門部会委員長、独立行政法人労働者健康福祉機構大阪産業保健総合支援センター産業保健相談員、日本医師会健康スポーツ医学委員会委員など。

関連記事