健康経営®のコラム

2018年12月11日

経営者に知ってほしい健康経営/第21回 自己愛と職場不適応

健康経営®

「自己愛」とは、自分が世界の中心的存在であり、多くの人からの賞賛欲求が強いパーソナリティを有する人で、コミュニケーション(共感)の欠如を意味しています。詳細な診断基準は米国精神医学会の手引きに記載されています。また、「自己愛過剰社会」の著者(ジーン・M・トウェンギら)は社会情勢の変化に伴うナルシシズム(自己を愛すること、自己陶酔)の急速な広がりが自己愛の過剰をもたらしていると指摘しています。

つまり、現実を見据えず、幻想の世界に生きていくことを求め続けることになりがちになるのです。結果は、例えば、スポーツ選手であれば、薬物を使用して新記録を達成すること、ソーシャルネットワークで多くの友人を持っていることに満足すること、整形手術によって美しさを追求すること、などがその著書の中で挙げられています。

さてそれでは、現代の職場ではどのように考えればいいのでしょうか。自分は仕事ができるはずであると信じて疑わない部下が、上司から叱責を受けた場合、どのような反応を示すのでしょうか。そんなことはありえない、きっと上司の指示が適切でなかったのだ、教え方が悪いのだ、私はできるはずだからできなかったのは自分のせいではない、と自己責任回避へと進むことになるのです。

自信はあるのに、職務が遂行できないのは、私のせいではないのです。上司が叱責しても、仕事ができるための解決にはならないのです。むしろ、パワハラとして感じることになるのです。つまりいわれのない叱責であると。

職務不適応は、職務に関する教育が十分なされていないことによって発生する職務遂行能力の低下がもたらす心理的不安が源であるといえます。現代社会は、あまりにも技術や考え方の変化が急速に進んでいるのです。すべての分野で適応するには一人の人間では限度があります。そこは、時間をかけていろいろな問題に直面して、一つ一つ解決することで職務遂行のための力が蓄えられ、ルーティンワークのみならず例外的な仕事も処理できるようになっていくのです。その過程において自信がついてくることになります。

潜在的な自信の欠如は、不安感を増幅させ、身体的症状を誘発することになります。例えば、睡眠障害、朝出社できない、出社すると種々の身体症状が出てくる、発表の日に体調不良で突発的に休む、などがあります。その結果が、職場不適応であるといっても過言ではありません。しかし、もし、自分ができる、と自信を持っている人たちに対して十分な教育期間を設け、発生した問題点を解決するための上司が支援すれば、自信は本物になります。まさしく、大器晩成を期待することが現代社会において企業に求められる忍耐力かもしれません。

以上

※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2018年11月18日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長 岡田 邦夫(おかだ くにお)

岡田先生

大阪市立大学大学院医学研究科卒業後、大阪ガス株式会社産業医、健康開発センター健康管理医長を経て平成8年より同社統括産業医に就任。特定非営利活動法人健康経営研究会理事長、プール学院大学教育学部客員教授健康スポーツ科学センター長、厚生労働省「職場のメンタルヘルス対策検討委員会」委員、文部科学省「教職員のメンタルヘルス対策検討会」委員、厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員、厚生労働省「労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会」委員などを歴任。
「健康経営のすすめ」社会保険研究所(共著)、「新版 判例から学ぶ従業員の健康管理と訴訟対策ハンドブック」法研(編著)、「これからの人と企業を創る健康経営」社会保険研究所(共著)、「健康経営推進ガイドブック」経団連出版、「ストレスチェック導入・運用サクセスガイド」メディカ出版など著書多数。
その他、大阪府医師会「健康スポーツ医学委員会」副委員長、一般財団法人大阪陸上競技協会理事、医事部部長、大阪マラソン医事・救護専門部会委員長、独立行政法人労働者健康福祉機構大阪産業保健総合支援センター産業保健相談員、日本医師会健康スポーツ医学委員会委員など。

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