健康経営®のコラム

2019年2月25日

経営者に知ってほしい健康経営/第23回 心身の疲労-感情労働

健康経営®

仕事上、自分の感情を抑えて我慢する、ということはよくあることです。労働を歴史の流れとともに分類すると、まずは身体的負荷を中心とする身体労働(主に体力を使う労働)がありますが、多くの場合は一晩熟睡すれば、翌日には疲労は回復していると考えられるものです。

次に、パソコン等の普及によりいわゆるVDT作業等(注)の頭脳労働が増えるようになりました。頭脳労働では、視覚拘束、姿勢拘束、精神拘束を伴うことから、眼精疲労、腰痛・肩こり、心理的ストレスによる種々の症状が出現することになりました。そして、次に、顧客中心(お客様第一)となり、企業方針として高い顧客満足度を追求するようになったことから、感情労働へと移行することになったのです。
(注)VDT(Visual Display Terminals)とは、いわゆるパソコン、携帯用情報通信機器、POS機器などディスプレイを有する情報機器のこと。VDT作業とは、こうした機器を用いてデータの入力・検索・照合等、文章・画像等の作成・編集・修正等、プログラミング、監視等を行う作業のことです。

感情労働とは、ホックシールドによれば、「この労働を行う人は自分の感情を誘発したり抑圧したりしながら、相手のなかに適切な精神状態を作り出すために、自分の外見を維持しなければならない。この種の労働は精神と感情の協調を要請し、ひいては、人格にとって深くかつ必須のものとして私たちが重んじている自己の源泉をもしばしば使いこむ。」(*)とし、例として客室乗務員をあげています。

お客様からのクレームは、いくら理不尽でも怒らず常に冷静沈着に対応して、顧客を失わないようにしなければならない、といういわば業務命令的な意味合いをもつ労働形態であるといえます。抑圧された感情は、身体的疲労と同じように蓄積することによって多くの場合には心身の不調をきたすことになります。

それではその解消はどうすればいいのでしょうか。クレームセンターで日々クレーム対応をしている人たち(オペレーター)は、どうして何年もその感情労働を継続することができるのでしょうか。破格な給与でしょうか。クレームセンターの環境が快適なのでしょうか。このような条件が提示されたとしても継続することが難しいといえますし、企業としてもコストパーフォーマンスに合わない職種になってしまいます。顧客からのクレーム、暴言などは心理的ストレスになりますが、それを誰かが受け止める必要があります。

日々のクレーム処理を迅速に処理し、顧客に適正に対応するためには、オペレーターの不満や不安を上司が受け止めること、そしてどのようなクレームでもその解決方法をすでに習得していれば予期不安が解消されることになります。多くの困難事例の対応策を習得し、対応の方法がわからない場合には、引き継ぎのためのコミュニケーションをマスターして、上司の責任者にバトンタッチをすればいいのです。

優秀な部下を育てるには、その職務において蓄積した感情(怒り、不安、苛立ち、敵対心など)のパワーを自分の成長のパワーにすればいいのです。但し、自分ひとりでは処理できないので、上司のサポートが必要です。

【参考文献】
(*)『管理される心:感情が商品になるとき』(A.R.ホックシールド著、石川准・室伏亜紀訳、世界思想社、2000年4月)

以上

※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年1月30日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長 岡田 邦夫(おかだ くにお)

岡田先生

大阪市立大学大学院医学研究科卒業後、大阪ガス株式会社産業医、健康開発センター健康管理医長を経て平成8年より同社統括産業医に就任。特定非営利活動法人健康経営研究会理事長、プール学院大学教育学部客員教授健康スポーツ科学センター長、厚生労働省「職場のメンタルヘルス対策検討委員会」委員、文部科学省「教職員のメンタルヘルス対策検討会」委員、厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員、厚生労働省「労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会」委員などを歴任。
「健康経営のすすめ」社会保険研究所(共著)、「新版 判例から学ぶ従業員の健康管理と訴訟対策ハンドブック」法研(編著)、「これからの人と企業を創る健康経営」社会保険研究所(共著)、「健康経営推進ガイドブック」経団連出版、「ストレスチェック導入・運用サクセスガイド」メディカ出版など著書多数。
その他、大阪府医師会「健康スポーツ医学委員会」副委員長、一般財団法人大阪陸上競技協会理事、医事部部長、大阪マラソン医事・救護専門部会委員長、独立行政法人労働者健康福祉機構大阪産業保健総合支援センター産業保健相談員、日本医師会健康スポーツ医学委員会委員など。

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