健康経営®のコラム

2019年3月12日

経営者に知ってほしい健康経営/第24回 1日3時間の労働-ケインズ

健康経営®

J・M・ケインズは著名な英国の経済学者である。その著書「ケインズ説得論集」において、「経済的な必要から自由になったとき、豊かさを楽しむことができるのは、生活を楽しむすべを維持し洗練させて、完璧に近づけていく人、そして、生活の手段にすぎないものに自分を売り渡さない人だろう。」と述べている。

「しかし思うに、余暇が十分にある豊かな時代がくると考えたとき、恐怖心を抱かない国や人はないだろう。人はみな長年にわたって、懸命に努力するようにしつけられてきたのであり、楽しむようには育てられていない。」として、自由な時間をある日突然与えられた時に、その有効な使い方を知らないことは恐ろしいと述べている。

「今後もかなりの時代にわたって、人間の弱さはきわめて根強いので、何らかの仕事をしなければ満足できないだろう。」との記載がある。そして、「1日3時間働けば、人間の弱さを満足させるのに十分ではないだろうか。」と推察している。1日3時間、週15時間働けばよい、との予測である。しかし、現代社会は、長時間労働であり、かつIT化により仕事の密度は高くなっている。1日3時間働けば今の職務が遂行できるとは思わない。

それでは、人間の弱さを満足させる1日3時間の労働は、むしろ、現代社会では不安を増長させ、企業の先行きが怪しくなってくる。週に20時間働けば、健康保険等は加入できるようになったが、これは高齢者に対する方策であるのか、または、兼業、副業、複業が認められるようになる我が国においては、1社の労働時間であるのだろうか。

ケインズが述べているように、残された職をできる限り多くの人が分け合えるようにすべきである、との予測は、未来のAI・IT化によって人の仕事が大幅に減り、多くの人が残された人手を必要とする仕事をシェアするための3時間なのであろうか。現代人は、おそらく1日3時間の労働では不安感を抱き、高ストレス、メンタルヘルス不調になるかもしれない。

そこで、「働くこと」の目的は、と質問された時に、私たちはどのように回答すればいいのだろうか。回答の選択肢の例として、働きがい、生きがい、などが挙げられるが、定年になれば会社へ行く必要がなくなってしまい、働きがいを喪失してしまうことになるのだろうか。人は人や社会のために働いているものであろう。もし一人で生きている社会であれば、働きがいも生きがいも感じないかもしれない。社会貢献やボランティアの仕事は金銭的報酬を目的とするものではない。そこで、「働くこと」の意味を多くの人がもう一度考えることになるのかもしれない。

労働契約は、労働時間の売買契約でもあるが、単にその「量」のみに注目するのではなく、その「質」について改めて考えてみると、健康経営は「質」の高い労働生産性を求めるには、人を育てることが重要であることに気づかなければならない。

以上

※「健康経営」は特定非営利活動法人健康経営研究会の登録商標です。
※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2019年3月1日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長 岡田 邦夫(おかだ くにお)

岡田先生

大阪市立大学大学院医学研究科卒業後、大阪ガス株式会社産業医、健康開発センター健康管理医長を経て平成8年より同社統括産業医に就任。特定非営利活動法人健康経営研究会理事長、プール学院大学教育学部客員教授健康スポーツ科学センター長、厚生労働省「職場のメンタルヘルス対策検討委員会」委員、文部科学省「教職員のメンタルヘルス対策検討会」委員、厚生労働省「ストレスチェック制度に関わる情報管理及び不利益取り扱いに関する検討会」委員、厚生労働省「労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会」委員などを歴任。
「健康経営のすすめ」社会保険研究所(共著)、「新版 判例から学ぶ従業員の健康管理と訴訟対策ハンドブック」法研(編著)、「これからの人と企業を創る健康経営」社会保険研究所(共著)、「健康経営推進ガイドブック」経団連出版、「ストレスチェック導入・運用サクセスガイド」メディカ出版など著書多数。
その他、大阪府医師会「健康スポーツ医学委員会」副委員長、一般財団法人大阪陸上競技協会理事、医事部部長、大阪マラソン医事・救護専門部会委員長、独立行政法人労働者健康福祉機構大阪産業保健総合支援センター産業保健相談員、日本医師会健康スポーツ医学委員会委員など。

関連記事