お客様が怖いですか、それとも上司が怖いですか?
社員を大切にしたい 2016年3月12日
登場人物
山田課長(営業一課 課長)
入社18年目の営業一課課長。大学時代まで野球部に所属していたバリバリの体育会系。部下には厳しく接することもあるが、その後のフォローには人一倍心を砕いている。情に厚く、周囲から信頼されている。
真一(営業一課所属)
入社5年目。物怖じしない明るい性格で、課のムードメーカー的存在。ただし、物事を楽観的に考える傾向があり、少しそそっかしく、「お調子者」的な部分が顔を出すのがタマにきず。
あらすじ
営業一課の山田課長は、部下である真一と取引先のA社を訪問していた。A社は古くからの取引先で、2年前から真一が担当している。関係は比較的良好だが、最近は競合他社が盛んに営業してきているようだ。
そんな折、A社の担当者が急きょ異動になり、新任担当者が着任した。そこで、山田課長と真一は、新任担当者にあいさつをするために、A社を訪問したのである。
A社の新任担当者は無口で、表情もやや険しく、積極的に話に乗ってくるタイプではなかった。山田課長や真一の会社が提供しているサービスについても、ほとんど理解していない様子だ。
山田課長は、今回の訪問は今後の長期的な取引継続の第一歩になると考えていた。そのため、和やかな雰囲気づくりを心がけ、ほぼしゃべり続けの状態で30分の商談を終えた。
A社からの帰り道、真一は緊張感から解放されたせいもあり、妙にハイテンションだ。しかし、山田課長は真一とは対照的に無口になっていた。
山田課長は、今日の訪問を振り返りながら、この先、どうすればA社の新任担当者とうまくコミュニケーションが取れるだろうかと考えていたのである。窓口となる担当者同士がきちんとコミュニケーションを取れていないと、思いもよらないトラブルが生じることがある。最悪の場合、競合他社にA社を取られてしまうかもしれない。
そんな山田課長とは逆に、これからA社の新任担当者と付き合っていく真一はあっけらかんとしていた。この違いはどこから生じてくるのだろうか。
A社からの帰り道の山田課長と真一の会話の中に、上司と部下のギャップが見えた……。
A社からの帰り道の山田課長と真一の会話
課長:お疲れ様。新しい担当者は無口な人のようだから、初めのうちはコミュニケーションを取るのが大変かもしれないね。できるだけメールや電話で接する機会を増やしてくれ。競合他社も営業をしかけてきているようだし、とにかく、丁寧に対応していこう。
真一:はい。分かりました。
課長:しかし、先方も先方だよね。初対面なんだし、もう少し話に乗ってくれてもいいと思うけどな。先方も緊張していたのかな。
真一:ははは。そんなに気にしなくてもいいんじゃないですか? 初対面なので、向こうも緊張していただけだと思いますよ、課長、コワモテですし(笑)。
課長:私がコワモテだって?
真一:いやいや、それは冗談です(汗)。ただ、仕事中の課長は本当に怖いというか、厳しいというか……。とにかく私から見れば、今日のA社の担当者と話をするよりも、課長に報告するときのほうが緊張します。真っすぐ目を見られないくらいです(笑)。
課長:え? 真一は、お客様よりも私のほうが怖いっていうのか!?
真一:だって、お客様はこちらの話をとりあえず最後まで聞いてくれるじゃないですか。でも、課長に報告しているときは途中で叱られてしまうことが多いですよね。正直に言うと、怖さの度合いで考えたら、A社の担当者は課長の比じゃないですよ(笑)。
課長:しかしね、わが社が成り立っているのは、皆の働きはもちろん、今日訪問したA社をはじめとしたたくさんのお客様に支えられているからだろう。お客様を軽んじてはいけない。不適切な対応で取引が打ち切られでもしたら大変なことになるぞ。
真一:それは確かにそうですが……。でも、先方だってうちの会社と長年の取引関係にあるわけですし、着任早々に取引先を変えようなんて考えないと思うんですよね。それに、先方が無口なのは性格かもしれませんし、これまで通りにやればいいのではないでしょうか?
課長:ふぅ~。いいかい、真一。ビジネスはそんなに甘くはないぞ。こちらの対応が悪ければ、お客様は私たちを叱ることさえしてくれないまま、気が付いたときにはいなくなってしまうんだよ。
上司と部下、それぞれの思いや考え
山田課長のように、一番怖い存在は「お客様」だと感じているビジネスパーソンは少なくありません。
課長など組織をマネジメントする立場になると、成功や失敗を数多く経験しています。そうした経験を積み重ねるうちに、どのような場合にビジネスがうまく進みやすいのか、逆に問題が発生しやすいのかが、何となく分かるようになってきます。
同時に、お客様の大切さを改めて実感します。会社の仕組みが理解できるようになると、「お客様がお金を払ってくれるから、会社は成り立っている」ということを痛感するのです。
もちろん、頑張ってくれている部下に大いに感謝しています。しかし、日ごろはそうした気持ちを言葉などにして伝える機会は少ないかもしれません。
一方、真一のように、一番怖い存在は「自分の上司」だと感じているビジネスパーソンが少なくないのも事実です。
部下の立場からしてみれば、上司は自分にはできない仕事をバリバリこなす憧れの存在です。しかし半面、何をするにしても上司の承認を得なければならないのは少し苦痛です。部下にとって、上司は乗り越えなければならない最初の壁でもあるのです。
いずれにしても、部下は、上司に多くのことを相談しなければなりません。しかし、部下が一生懸命に話をしても、上司から「何が言いたいのか分からない」などと、話を遮られてしまうことがあります。
こうした状態が続くと、部下は上司に話しかけにくくなるばかりか、次第に恐怖心が生まれ、コミュニケーションが取りにくくなってしまいます。
上司と部下のギャップの根底は「業務目的と時間軸」
「ビジネスを進める上で最も怖い存在は誰?」と質問したら、上司の山田課長はお客様、部下の真一は自分の上司(山田課長)と答えることでしょう。
これは、上司と部下が考える業務目的と時間軸が違うのだから当然のことだといえるかもしれません。
上司はお客様と良好な関係を構築(最終的には商品を販売)しなければならないと考えており、長期的な時間軸でビジネスを捉えています。少しでも長くお客様と取引をしたいと望むため、お客様のことがとても気になります。
一方、部下は、その場その場の短期的な時間軸で物事を捉えています。まずは、その場できちんと自分の話を聞いてもらえるかどうか、そのときの相手の機嫌がとても気になります。
ギャップを埋める処方箋
1)上司の仕事は部下を教育すること
上司も昔は新人でした。最初から仕事ができたわけではありません。上司に教わり、時には叱られながら、少しずつ成長してきました。今思えば、新人だった頃の一瞬一瞬はとても大切だったと実感できるはずです。
ですから、もし部下が「上司が怖くて話しかけにくい」と感じているとしたら、それは部下の貴重な教育機会を上司自らがなくしてしまっていることになります。
上司は、部下に学ぶきっかけを与え、部下の学びたいという意識を高めなければなりません。そのための第一歩は、「課長、ちょっといいですか……」と部下がやってくる前に、「業務で困っていることはないか?」と、上司のほうから声をかけることです。
2)部下は、上司の指摘に感謝しよう
お客様は、自社にメリットがあると判断すれば契約をしてくれます。お客様は、常に自社(お客様)にメリットのある提案を探しているため、相手が新人の営業担当者であっても、とりあえずは最後まで話を聞いてくれることが多いものです。
しかし、こちらが的外れな提案をした場合、お客様は、その場はにこやかに話を聞いてくれていますが、次のチャンスは決して与えてはくれません。
一方、上司は違います。こちらが的外れな報告をすれば、必ず問題点を指摘してくれます。時には厳しく叱られますが、それは上司が真剣に向き合ってくれている証拠です。こうして上司の壁を乗り越え続けることで、知らず知らずのうちに、部下のビジネススキルは向上しているのです。
ギャップ克服! 上司力・部下力チェックシート
以下は、「ビジネスを進める上で最も怖い存在は誰?」という質問に対する上司と部下のギャップを埋める際の参考になるチェックシートです。
上司力チェックシートと部下力チェックシートがあるので、互いに自己評価と相手評価を行い、その結果を見せ合ってコミュニケーションを取るのもよいでしょう。なお、チェックの数によるギャップ回避力の目安は次の通りです。
7~10個:ギャップ回避力→90%
4~6個:ギャップ回避力→50%
1~3個:ギャップ回避力→10%
●上司力チェックシート
- 「お客様」の大切さを、部下にきちんと教えている
- 部下が話をしやすい雰囲気作りを心がけている
- 「おはよう」「お疲れ様」などのあいさつは、必ず自分からしている
- 全ての部下に、同じボリューム(頻度や時間)で話しかけるようにしている
- 部下の話を聞くときは、手の動きをとめ、部下に体を向け、部下の顔を見ながら聞いている
- 部下には、聞く人にとって分かりやすく、要領を得た報告や説明の仕方を指導している
- 部下を叱るときには、必ず、その理由も示している
- お客様を訪問する前に、訪問の目的、交渉や商談のプランを部下に伝えている
- お客様を訪問した後に、その訪問でのポイントとなった事項や発言を部下に教えている
- 部下の働きに感謝している
●部下力チェックシート
- 分からないことがあったら、すぐに上司に質問するようにしている
- 上司から質問されたとき、「分かりません」ではなく、「調べてみます」と言うようにしている
- 上司からの指示や注意に対しては、必ず初めに「はい」と素直に言うようにしている
- 上司に相談する際には、事前に自分なりの考えをまとめるようにしている
- 上司の指示をただ聞くだけでなく、その意図を考えるようにしている
- きちんとした“報連相”をすることは、自分の業務だと自覚している
- 上司と話をするときは、メモ帳とペンを持っていくようにしている
- お客様を訪問する前に、お客様に話す内容を自分なりに考え、事前に上司に相談している
- お客様を訪問した後に、その訪問でのポイントとなった事項や発言を上司に質問している
- 上司の教えに感謝している
以上
※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年3月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。
執筆者
日本情報マート
中小企業の頼れる情報源として、経営者の意思決定をサポートするコンテンツを配信。 「開業収支」「業界動向」「朝礼スピーチ」など2000本を超えるコンテンツを有するほか、年間200件以上の市場調査も行っている。現在、50を超える金融機関に情報提供を行っている。