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オフィスのデザインや環境は健康経営にどう影響するのか?

社員を大切にしたい 2020年10月30日

オフィスの環境を左右する8つの要因

新型コロナウイルス感染症で一気に広まったリモートワークですが、足元では、リモートワークを継続する企業と、オフィスワークに戻す企業とに明確に分かれてきています。オフィスワークを行う企業にとっては、「なぜ、オフィスなのか」をきちんと考える必要があり、オフィス環境についてもこれまで以上に考えなければなりません。

では、オフィスの環境は、そこで働く従業員の健康やモチベーションにどれだけ影響を及ぼすのでしょうか。その疑問に答える鍵が、主に建築学や人間工学の分野で進められてきた「快適性」と「生産性」に関する研究にあります。近年、これらに「健康経営」の視点を加えて、オフィスをどう整備するべきかという研究が進められています。本稿では、従業員が働きやすいオフィスの要因を探ります。

まず、快適性や生産性をもたらす要因です。オフィス環境の影響を調べた研究は国内外にさまざまありますが、アルホーら(Al Horr et al.,2016)による研究では、快適性や生産性に関わる要因を次のように示しています。

具体的には、「オフィスレイアウト」「音」「室内空気質」「光」「温熱」「バイオフィリア・眺め」「立地・アメニティ」「形・雰囲気」があります。ここでは従業員の不満やコミュニケーション、生産性に注目し、特に働きやすさに影響を与えやすい「オフィスレイアウト」「音」「室内空気質」「光」「バイオフィリア・眺め」について海外の研究を基に考えてみます。

大部屋と小部屋、最適なのは?

まず、「オフィスレイアウト」が従業員の働き方にどんな影響を与えるのかを考えてみましょう。オフィスレイアウトは一般的に、大部屋を壁などで仕切らずにデスクを配置する「オープンプラン」と、壁で仕切られ個室や少人数用の個室として使用される「クローズドプラン」に大別されます。

オープンプランではデスクを複数つなげて島状にすることが多く、必要に応じてパーティションやキャビネットなどでデスクを区切ってワークスペースをつくることもあります。オフィスの床面積を効率よく使えることから、日本の多くのオフィスで採用されています。オープンプランはレイアウトを柔軟に変えられるといったメリットがあるのに対し、クローズドプランは高いプライバシーや機密性を確保できるのがメリットです。

キムら(Kim & de Dear.2013)による研究では、303棟のオフィスビルを対象にオープンプランとクローズドプランで働く従業員の不満要因を調べています。

1)周囲の「音」に考慮したオフィスレイアウトを

一番不満だったのは、オフィスレイアウトを問わず「音のプライバシー」でした。オープンプランで働く従業員の約50~60%、クローズドプランで働く従業員の約20~40%が音に不満を抱いています。

例えば、隣の席にいる同僚が話している電話の声、パーティションを隔てた向こう側の打ち合わせスペースから漏れてくる会話など、周囲から聞こえてくる声が気になるケースが多いようです。特にオープンプランはクローズドプランに比べて周囲の音を遮る壁が少ないため、聞こえてきてしまう音をコントロールしにくいことが不満の多さにつながっていると考えられます。

もっともオープンプランは、周囲に気遣うことなく自由に会話しやすい環境を想定したオフィスデザインのため、音のプライバシーが保たれないのは必然ともいえます。しかしそれでも、人の声をある程度コントロールできる対策を講じることが必要です。

例えば、オープンプランの一角に、吸音効果のある高いパーティションで囲ったコンセントレーションブース(集中作業ブース)を設け、集中したいときだけ利用するスペースをつくっておくのが効果的です。

また、少人数での作業や打ち合わせなどをするためのチームワークスペースをつくるなら、一人で高い集中力が必要な業務を担う従業員、チームがいる場所の近くに設けないように配慮するべきでしょう。

なお最近は、自分のデスクを固定せず、そのときの仕事内容に応じて作業場所を変える「ABW(アクティビティ・ベースド・ワーキング)」という働き方が認知されつつあります。従業員が働く場所を自由に選択できるようにするのも一案です。

2)“コミュニケーションのとりやすさならオープンプラン”とは断言できない?

では、オフィスレイアウトは「コミュニケーションのとりやすさ」にどう影響するのでしょうか。同研究によると、コミュニケーションをとりにくい、声をかけにくいなどの不満を抱く人の割合は、オープンプラン、クローズドプランともに10%未満にとどまっています。

一般的に、自由に会話しやすいオープンプランのほうが、クローズドプランより、コミュニケーションはとりやすいと考えられているに違いありません。しかし研究結果から、オープンプランだからコミュニケーションをとりやすい、クローズドプランだからコミュニケーションをとりにくいという答えは必ずしも得られませんでした。

クローズドプランからオープンプランへの移転の影響について調べたある研究では、職位の高い従業員はオープンプラン移行後、コミュニケーションをとりにくくなったという報告があります。また、オープンプランは機密情報を含む会話をしにくいという側面も踏まえておかなければなりません。そのため、「オフィス内のコミュニケーションを円滑にするにはオープンプランが最適である」と、コミュニケーションの観点のみで結論を導出するのは必ずしも適切ではないようです。

認知力に影響する空気の質

次に、空気の清浄さや匂いなどを示す「室内空気質」が与える影響について考えます。室内空気質の要素には室温や湿度に加え、人体から発生する二酸化炭素、ほこり、ダニやカビ、床や壁などの建築材料やオフィス家具から放散される揮発性有機化合物(VOC)などが含まれます。これらが働き方や健康にどう影響するのでしょうか。

アレンら(Allen et al.,2016)による研究では、室内空気質が異なる3つのオフィスを構築し、従業員の意思決定や情報収集、危機管理などの認知能力を調べています。ここで言う3つのオフィスとは、「一般的なオフィス」、VOCの濃度を低く抑えた「グリーンオフィス」、VOC濃度を抑えたのに加えて外気の供給量を増やした「グリーンプラスオフィス」です。

24人の従業員が各オフィスで通常業務後に認知能力テストを行ったところ、得点が高かったのは「グリーンプラスオフィス」の従業員でした。VOC濃度と二酸化炭素濃度が低く、従業員の集中力低下を抑えられたことが好成績につながったと考えられます。

もっとも最近のオフィスビルは省エネルギーを重視した設計で、室外環境の影響をできるだけ受けないようデザインされたものが目立ちます。窓やドアを開けずに空気を循環できるようにしている一方で、室内空気質は悪化しがちなため、従業員の生産性を低下させる要因の1つになっているとも考えられます。

また、建築材料などから放散されるVOCは、シックビルディング症候群と呼ぶ健康被害を招く恐れがあります。目まいや吐き気、頭痛などの症状が現れ、従業員の健康を害しかねません。

空気が「淀んでいる」と感じたときは、窓やドアを開けて新鮮な空気を取り入れることが大切です。特に窓やドアを閉めきっていた週末明けの月曜日は、十分換気するとよいでしょう。ただし、空気を入れ替えることでエアコンの冷気や暖気が逃げてしまうことになります。省エネルギーにも配慮し、むやみに外気を取り入れすぎないよう注意することも必要です。

なお、大勢が勤務するオフィスでは室内空気質による体調不良を見逃しやすいので注意します。一部の従業員がVOCなどに起因するシックビルディング症候群になったとしても、その原因を室内空気質ではなく個人の体調の問題と受け取られてしまうためです。目まいや吐き気、頭痛、疲労感、皮膚の乾燥などの症状を訴える従業員がいたら注意が必要です。特に新築や改築したばかりのオフィスに入ったとき、こうした症状が現れたらシックビルディング症候群を疑うべきでしょう。

自然を感じられるオフィスは従業員が健康に

最後に「光(自然光)」が与える影響について考えます。オフィスに自然光が差し込む環境と差し込まない環境では、従業員の健康にどう影響するのでしょうか。ボウベクリら(Boubekri,M.,et al.,2014)による研究では、窓がない(あるいは窓が遠くて日が当たらない)環境で働く従業員と、窓があって日がよく当たる環境で働く従業員で、健康状態と睡眠の質を調べています。

その結果、窓あり群は窓なし群に比べ、健康状態と睡眠の質において良い結果が得られました。窓あり群のほうが平均睡眠時間も46分長いという結果でした。

窓のあるオフィスはより多くの日光を浴びることで生体リズムが整えられていると考察されます。また、睡眠も朝や昼間の光を浴びることが目覚めや代謝によい影響を及ぼします。このように日光が健康や睡眠に有益だという報告は多々あり、近年の建築学では、光をどう取り入れるかがクローズアップされるようになっています。また、自然を見る・感じるといったことも重要なテーマになっています。

とはいえ、オフィス内の全デスクに自然光を届けるようにするのは現実的に困難です。窓のないオフィスもあれば、勝手にブラインドを開けられない環境も少なくないでしょう。このような場合、休憩時に外の景色を眺めたり屋外へ行ったりするようにして、日光や自然を感じる機会を意識的に増やすだけでも効果を十分見込めます。前述のVOC対策としても有効です。

従業員が環境をコントロールできるように

大勢が勤務するオフィスでは、例えば空気が淀んでいるからといって勝手に窓を開けるわけにはいきません。また、オフィスビルによっては空調が一元管理され、室温を自由に調整できないケースもあります。

このような状況でも従業員の健康や快適性、生産性を追求するなら、各自が音や室内空気質、光などの物理的な環境を可能な限りコントロールできるように配慮することが極めて大切です。

リーら(Lee,So Young & J.L.Brand.2010)による研究では、オフィスの室温や光を個人的にコントロールできる度合いと、それらによる集中力の妨げの軽減度合いについて調べています。

結果は、個人が室温や照明の明るさなどをコントロールできる度合いが高いほど、集中を妨げる影響を抑えられ、生産性を向上できることが示されました。

そこで有効なのが、従業員がある程度自由にオフィス環境を変えられる「パーソナライゼーション」です。例えば海外の映画やドラマでは、自分のデスクに家族の写真などを飾っているシーンをよく見かけます。自分の領域を自分らしく特徴づけることで、職場の満足度を高めることができるのです。同様に、暑ければ卓上扇風機、寒ければひざ掛け、乾燥していると感じたら卓上加湿器といった具合に、時にはオフィス環境のパーソナライゼーションを許容し、働きやすいと感じられる環境を従業員各自がつくれるようにすることが大切です。

 オフィス環境を改善するにしても、物理的な制約から困難なケースが多々あります。そこでまずは従業員から阻害要因を聞き出し、着手できるところから改善するだけでも効果があるはずです。パーソナライゼーションのようにコストをかけずに改善できる施策もあります。これを機に、従業員の健康に寄り添うオフィスはどうあるべきかをぜひ考察してみてください。本稿がオフィスのデザインを考えるヒントになれば幸いです。

参考文献

Al Horr, Y., Arif, M., Kaushik, A., Mazroei, A., Katafygiotou, M., & Elsarrag, E.(2016). Occupant productivity and office indoor environment quality: A review of the literature.Building and Environment, 105, 369-389.

Kim,J., & de Dear, R(2013). Workspace satisfaction: The privacy-communication trade-off inopen-plan offices. Journal of Environmental Psychology, 36, 18-26.

Allen, J. G., MacNaughton, P., Satish, U., Santanam, S., Vallarino, J., & Spengler, J. D. (2016). Associations of cognitive function scores with carbon dioxide,ventilation, and volatile organic compound exposures in office workers: A controlled exposure study of green and conventional office environments. Environmental Health Perspectives, 124(6), 805-81

Boubekri, M., Cheung, I. N., Reid, K. J., Wang, C. H., & Zee, P. C. (2014). Impact of Windows and Daylight Exposure on Overall Health and Sleep Quality of Office Workers: Journal of Clinical Sleep Medicine, 10(6), 603-11.

Lee, S. Y., & Brand, J. L. (2010). Can personal control over the physical environment ease distractions in office workplaces? Ergonomics, 53(3), 324-335.

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2020年10月2日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者:
花里真道 千葉大学予防医学センター准教授

花里先生

2002年千葉大学工学部デザイン工学科卒業後、同大学大学院工学研究科修士課程修了。株式会社栗生総合計画事務所を経て、千葉大学予防医学センター技術補佐員。特任助教、特任准教授、工学部建築学科非常勤講師を経て2013年12月より現職。博士(工学)。専門は、建築設計・計画、公衆衛生。健康な都市・建築について設計・研究活動をしている。





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