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企業が取り組むべき従業員の健康管理と「安全配慮義務」について

リスクにそなえたい 2021年8月11日

安全配慮義務とは、企業として従業員が安心して働けるよう配慮する義務のことであり、従業員が心身共に健康に働く職場を作る上で、欠かせない取り組みです。
しかし、人事総務の担当者や管理職でも、安全配慮義務について詳しく知っているわけではありません。無意識のうちに安全配慮義務に違反してしまわないように企業が取るべき措置や、違反した際の罰則について、分かりやすく紹介します。

安全配慮義務とは

安全配慮義務とは、簡単に言えば、

企業は従業員が心身共に健康に働けるよう、職場環境の整備や健康管理に配慮すべき

というものです。この場合の従業員は、管理監督者を含む全ての従業員を指します。
法律上は、労働契約法第5条に次のように定められています。

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

安全配慮義務は、過重労働や業務中の事故に関する裁判では必ずといっていいほど出てくるキーワードです。安全配慮義務違反が認められると、従業員や家族への損害賠償、企業イメージの低下等、企業にとって大きなリスクがあります。
それにもかかわらず、安全配慮義務の具体的内容については法律に定めがなく、裁判所等が個別の事案ごとに安全配慮義務違反の有無を判断します。企業としては対策に困りますよね……。

企業が知らないうちに安全配慮義務違反になってしまわないようにするには、次の2つのポイントを押さえる必要があります。以降で詳しく見ていきましょう。

  • 判例等から安全配慮義務のおおまかなイメージをつかむ
  • 従業員の心身の健康に関する各種労働法(労働基準法等)の規定を遵守する

安全配慮義務を理解するために押さえるべき内容

安全配慮義務が具体的にどのような義務を指すのかは、法学者や弁護士によってさまざまな説が定義されていますが、ここでは、システムコンサルタント事件(最高裁二小平成12年10月13日決定)を基にした考え方を紹介します。
この事件は、過重労働の末、脳幹部出血によって死亡した従業員に関して、企業側の安全配慮義務違反が認められたものです。
裁判所は第一審で、安全配慮義務の具体的内容を次のように定義しました。

労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について適正な労働条件を確保し、さらに、健康診断を実施した上、労働者の年齢、健康状態等に応じて従事する作業時間及び内容の軽減、就労場所の変更等適切な措置を採るべき義務

この定義を掘り下げてみると、安全配慮義務は次の3つの義務に分解できます。システムコンサルタント事件では、企業側はいずれの義務も守っていなかったと判断されました。

  • 適正労働条件措置義務
  • 健康管理義務
  • 適正労働配置義務

それぞれ分かりやすく紹介していきます。

1)適正労働条件措置義務

これは、労働時間、休憩時間、休日、休憩場所等について、従業員の心身の健康が保たれるよう適正な労働条件を確保する義務です。
システムコンサルタント事件では、死亡した従業員は企業からあるプロジェクトのリーダーを任されていましたが、高血圧で治療を要する状態にあったにもかかわらず、企業側が明らかにプロジェクトの人員が不足している状態にありながら、人員を削減していました。
裁判所はこれによって従業員が過重労働に陥り高血圧を悪化させたものと判断し、企業の安全配慮義務違反を認めています。

2)健康管理義務

これは、健康診断やストレスチェック制度、産業医の職場巡視などを通じて、従業員の健康状態を把握する義務です。
システムコンサルタント事件では、死亡した従業員が定期健康診断を受診していない年があり、企業もその状況を放置していました。これについて裁判所は、「企業には健康診断受診の機会を与えるのみならず、実際に受診できるように時間的余裕を与え、その受診の有無を確認し、受診していない場合には受診するように指導する義務」があるとして、企業の安全配慮義務違反を認めています。
また、裁判所は、「健康診断は、健康情報を入手する一手段に過ぎない」のであるから、企業には従業員の「健康状態を詳しく把握し、就労制限が必要な健康状態であるか否かを判断すべき義務」があるとも言っています。企業が産業医を選任していながら、健康診断などに関する職務の一部を実施していなかったことなどから、企業の安全配慮義務違反を認めています(産業医の職務については後述します)。

3)適正労働配置義務

これは、従業員の年齢や健康状態といった個別の事情に応じて、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の必要な措置を実施する義務です。
システムコンサルタント事件では、死亡した従業員は高血圧で治療を要する状態にあり、精神的緊張の強い仕事を禁じ、仕事量も健康な人間の5~7割程度にとどめるべき状況だったと判断されました。
企業は定期健康診断の結果などを基に、こうした措置を講ずべきだったにもかかわらず、措置を講じず、逆に精神的負担の大きいプロジェクトリーダーに任命していました。このことから裁判所は、企業の安全配慮義務違反を認めています。

安全配慮義務違反の判断ポイントは?

安全配慮義務違反とみなされるかどうか、裁判所が判断する際にポイントとなるのが、「従業員の被害の可能性を事前に予見できたか(予見可能性)」と、「被害を予見できたとして、それを回避しようとしたか(結果回避可能性)」です。

  • 予見可能性:従業員の負傷・疾病・死亡等、被害が発生する可能性を事前に予見することができたか
  • 結果回避可能性:被害の発生を予見することができた場合、その危険を回避する義務を果たしたか

予見可能性が認められたにもかかわらず、結果回避義務を果たさなかった場合、安全配慮義務違反になる可能性が高まります。
電通事件(最高裁二小平成12年3月24日判決)では、第二審で、過重労働によってうつ病を発症し、その後自殺した従業員に関して、「自殺という本人の意思に基づく行為を、予見し回避することが可能なのか」という点が争点となりました。
裁判所は、過重労働により従業員の健康状態が悪化しているのを企業が認識していた事実から、「従業員がうつ病等の精神疾患に罹患(りかん)し、その結果、自殺することもあり得ると予見することは可能であった」と判断しています。
そして、予見できたにもかかわらず、企業は業務中の時間配分について指導を行ったのみで、業務量の調整といった適切な措置を講じていなかったことから、結果回避義務を果たしていないと判断し、企業の安全配慮義務違反を認めています。

安全配慮義務違反に罰則はある?

1)罰則はないが多額の損害賠償を請求されるリスクはある

労働契約法には、安全配慮義務違反に関する罰則がありません(後述の「安全配慮義務を果たすために企業が取るべき措置」についての違反は、労働安全衛生法等の罰則の対象になります)。しかし、企業が本来果たすべき義務を果たさなかったということで、民法第415条(債務不履行による損害賠償)、第709条(不法行為責任)、第715条(使用者等の責任)等に基づき、従業員やその家族から損害賠償を請求される恐れがあります。
裁判では「過失相殺」といって、企業に安全配慮義務違反が認められる場合であっても、従業員側にも過失があれば、それに応じて損害賠償額が減額されるケースがあります。
システムコンサルタント事件では、従業員自身が高血圧であることを知りながら、病院に行くといった改善に向けた努力をしていなかったこと、が従業員側の過失として認められました。
また、電通事件では、従業員の両親が本人と同居していて勤務状況や生活状況を把握しており、うつ病への罹患や自殺に至ることを予見できたにもかかわらず、改善のための措置を取らなかったことが、従業員側の過失として認められました。
もっとも、従業員の死亡といった甚大な被害が発生した場合、過失相殺を考慮しても多額の損害賠償額を支払わなければならない恐れがあります。実際、システムコンサルタント事件では約3200万円、電通事件では約1億6800万円を、企業が従業員の遺族に対して支払うことになったようです。

2)企業イメージの低下につながる恐れも

損害賠償と併せて、もう1つ押さえておかなければならないのが、レピュテーションリスク(企業イメージの低下)です。
裁判等で安全配慮義務違反が認められた場合、報道やSNSでの拡散を通じて、企業の名前が世間に知れ渡ります。その結果、企業に対する従業員や取引先の不信感が増加し、離職や取引停止といった事態になる恐れがあります。

安全配慮義務を果たすために企業が取るべき措置

繰り返しになりますが、企業が安全配慮義務を果たしているかは個別の事案ごとに判断されるため、「これさえやっておけば大丈夫」という絶対の正解はありません。
しかし、従業員の安全に関する労働法の規定を遵守していれば、安全配慮義務違反になるリスクを減らすことはできます。
ここでは、労働法を基に、安全配慮義務違反にならないために企業が押さえておきたい実務上の取り組みを紹介します。

1)従業員の労働実態を把握して、過重労働になるのを防ぐ

労働安全衛生法では、管理監督者を含む全ての従業員の労働時間を、客観的な方法(タイムカード、パソコン等の使用時間の記録等)や、その他の適切な方法(実態調査の実施を前提とした自己申告制等)によって把握しなければならないとされています。
また、労働基準法では、労働時間は原則として法定労働時間(原則、休憩時間を除き1日8時間、1週40時間)の範囲内に収めなければならないとされています。就業規則等に時間外労働の規定を定めて36協定(労働基準法第36条に基づく労使協定)の締結・届け出を行うと、時間外労働(法定労働時間を超える労働)を命じることができますが、その場合も「時間外労働の上限規制」を遵守し、過重労働に注意しなければなりません。

なお、企業は時間外労働が月80時間(休日労働を含む)を超え、疲労の蓄積が見られる従業員から申し出があった場合などに、医師による面接指導を実施する義務があります。

■労働時間の適切な管理で長時間労働をなくそう■
https://www.ganbarusite-daido.jp/report/trend/bp500014/

労働時間管理で注意すべきは、従業員が「時間外労働が多いことを企業に追及されたくない」などの理由から、労働時間を少なく申告してくることです。
こうした従業員は過重労働になるリスクが高いため、企業は従業員の申告内容をうのみにするのではなく、従業員のパソコンの使用時間と申告内容を定期的に照合するなどして、労働実態を把握するように努めましょう。

2)健康診断やストレスチェック制度を実施した上で、「実施したら終わり」にしない

企業には、労働安全衛生法に基づく法定の健康診断を実施する義務があります。法定の健康診断には、定期健康診断など従業員の職種に関係なく行う「一般健康診断」と、特定の有害な業務に従事する従業員に対して行う「特殊健康診断等」があります。

■健康診断の実施は企業に法的義務がある! 対象者や診断項目を解説■
https://www.ganbarusite-daido.jp/report/personnel/bp300051/

また、従業員数が常時50人以上の場合、毎年1回ストレスチェック制度を実施する義務があります。ストレスチェック制度には、従業員が所定の質問に答えて自分のストレス状態を把握する「ストレスチェック」の他、医師による面接指導などが含まれます。

■コロナ禍で重要性が高まる? ストレスチェック制度の実務のポイント■
https://www.ganbarusite-daido.jp/report/personnel/bp300002/

なお、企業には健康診断やストレスチェックの結果に基づき、必要に応じて医師の意見を聴き、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を実施する義務があります。
健康診断もストレスチェック制度も、「実施したら終わり」ではなく、あくまで「従業員の健康保持が目的」であることを意識しましょう。

3)安全衛生管理体制を整備し、機能させる

労働安全衛生法では、企業には安全(事故防止等)と衛生(病気の予防・治療等)に関する施策を効果的に実施するため、業種や従業員数に応じた担当者や委員会の設置・選任(安全衛生管理体制の整備)が義務付けられています。

  1. 担当者:総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医、安全衛生推進者(衛生推進者)、作業主任者
  2. 委員会:安全委員会、衛生委員会(まとめて安全衛生委員会とすることも可)

各担当者・委員会の概要、選任・設置が義務付けられている企業については、厚生労働省ウェブサイトをご確認ください。

■厚生労働省「安全衛生に関するQ&A(安全衛生管理体制関係の項を参照)」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/faq_index.html

なお、安全衛生管理体制を整備していても、その職務や役割が十分に機能していない場合は、安全配慮義務違反になる可能性が高まります。
例えば、産業医は従業員数が常時50人以上の会社が選任し、次の5つの職務を担当しますが、システムコンサルタント事件では、企業の産業医が1.と5.の職務の一部を遂行していなかったため、企業の安全配慮義務違反が認められました。

  1. 従業員の健康管理(健康診断、面接指導等の実施、その結果に基づく従業員の健康保持のための措置、作業環境の維持管理、作業の管理等)に関すること
  2. 従業員の健康の保持増進(健康教育、健康相談等)に関すること
  3. 労働衛生教育に関すること
  4. 従業員の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置に関すること
  5. 1.から4.の実施に加え、毎月1回以上作業場等を巡視し、作業方法または衛生状態に有害の恐れがある場合、直ちに必要な健康障害防止措置を実施すること

■産業医の上手な活用方法とは? 主な業務・相談事例を分かりやすく紹介■
https://www.ganbarusite-daido.jp/report/personnel/bp300066/

4)安全衛生教育を実施する

企業には、労働災害を防止するため、従業員に対し労働安全衛生法に基づく安全衛生教育を実施する義務があります。安全衛生教育は、次の3種類に分けられます。

  1. 雇入時・作業内容変更時の教育:従業員の雇入時と作業内容変更時に実施
  2. 特別教育:厚生労働省令で定める危険・有害業務に従業員を就かせるときに実施
  3. 職長教育:建設業、製造業(一部業種を除く)、電気業、ガス業、自動車整備業、機械修理業において、従業員を職長等の職務に就かせるときに実施

各安全衛生教育の内容については、厚生労働省職場のあんぜんサイトをご確認ください。

■厚生労働省職場のあんぜんサイト「安全衛生教育」■
https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo68_1.html

なお、派遣社員に対する安全衛生教育については、次の通り派遣元が実施するものと、派遣先が実施するものがあるので注意しましょう。

  1. 雇入時・作業内容変更時の教育:雇入時については派遣元が、作業内容変更時については派遣元・派遣先双方が実施
  2. 特別教育:派遣先が実施
  3. 職長教育:派遣先が実施

5)従業員の危険・健康障害を防止するための措置を講じる

企業は、労働安全衛生法に基づき、従業員の危険・健康障害を防止するために、次の措置を実施する義務があります。

  1. 機械、器具その他の設備(機械等)に係る危険防止措置
  2. 爆発性の物、発火性の物、引火性の物等に係る危険防止措置
  3. 電気、熱その他のエネルギーに係る危険防止措置
  4. 掘削、採石、荷役、伐木等の業務における作業方法に係る危険防止措置
  5. 墜落する恐れ、土砂等が崩壊する恐れのある場所等に係る危険防止措置
  6. 原材料、ガス、蒸気、粉じん、酸素欠乏空気、病原体等に係る健康障害防止措置
  7. 放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等に係る健康障害防止措置
  8. 計器監視、精密工作等の作業に係る健康障害防止措置
  9. 排気、排液、残さい物に係る健康障害防止措置
  10. 作業場の通路、床面、階段等の保全、換気、採光、照明、保温、防湿、休養、避難、清潔に必要な措置
  11. その他従業員の健康、風紀、生命の保持に係る措置
  12. 作業行動に係る労働災害防止措置
  13. 労働災害発生の急迫した危険がある場合における作業の中止、避難等の措置
  14. 救護に係る必要な機械等の備付け、管理
  15. 救護に係る必要な事項についての訓練
  16. 爆発、火災等に係る従業員の救護に関すること

具体的な措置の内容については、業種などによって異なる部分があるため、厚生労働省ウェブサイトをご確認ください。

■厚生労働省「安全衛生関係リーフレット等一覧」■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/gyousei/anzen/index.html

6)ハラスメント防止措置を実施する

セクハラ(セクシュアルハラスメント)、マタハラ(マタニティーハラスメント)、パワハラ(パワーハラスメント)などの各種ハラスメントについても注意が必要です。
「ハラスメントは個人間の問題じゃないの?」と思うかもしれませんが、企業がハラスメントによる被害(精神障害の発症など)の発生を予見できる状態にありながら、これを回避するために必要な措置を講じなかった場合、安全配慮義務違反となる恐れがあります。
これを防ぐためには、まず法律で義務付けられている「ハラスメント防止措置」を確実に実施することです。
具体的には、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、労働施策総合推進法に基づき、次の5つを実施する義務があります。

  1. ハラスメント防止方針の明確化、周知・啓発
  2. ハラスメントに関する相談窓口の設置・運用
  3. 事実確認、ハラスメント行為者の処分と再発防止策の検討
  4. 相談者や行為者のプライバシーを保護、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨の周知・啓発
  5. 業務体制の整備など、マタハラの原因や背景となる要因を解消するために必要な措置の実施

措置の詳細については、厚生労働省ウェブサイトをご確認ください。

■厚生労働省「職場におけるハラスメントの防止のために(セクシュアルハラスメント/妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント/パワーハラスメント)■
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/seisaku06/index.html

以上
(監修 みらい総合法律事務所 弁護士 田畠宏一)

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年7月26日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
日本情報マート

中小企業の頼れる情報源として、経営者の意思決定をサポートするコンテンツを配信。 「開業収支」「業界動向」「朝礼スピーチ」など2000本を超えるコンテンツを有するほか、年間200件以上の市場調査も行っている。現在、50を超える金融機関に情報提供を行っている。

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