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シニア社員に健康的に働いてもらうための取り組み

リスクにそなえたい 2021年11月17日

意欲や能力のあるシニア社員を活かすには、「転倒」などといったシニア社員に起きがちな労働災害(労災)への対策を進めなければなりません。具体的には、

厚生労働省のガイドラインにのっとって、「2段階」で労災対策を進めていく

とよいでしょう。この記事では、具体的な労災対策の進め方のポイントや、ガイドラインを使って、実際に「転倒」を防止する際のやり方を解説します。

シニア社員の労災の現状

シニア社員が貴重な戦力になっている中小企業では、再雇用制度等によって定年後もシニア社員を雇用する仕組みを設けています。2021年4月1日からは「70歳までの就業機会確保」が努力義務化されたので、今後ますますシニア社員の活用機会は増えていくでしょう。
一方、シニア社員を雇用する場合は労災に注意が必要です。2020年に発生した、労災によって4日以上休まなければならない死傷者数は、60歳以上が3万4928人(全体の25%以上)と最も多く、なかでも「転倒」による死傷者数は1万人を超えています。

人間は年を取るとともに身体機能が衰えるため、シニア社員は若手社員に比べ、労災に遭いやすい傾向にあります。にもかかわらず、シニア社員は「自分はまだ若いから」と労災リスクを甘く見てしまいがちな点が問題です。つまり、シニア社員に注意喚起をするだけでは労災は減りにくいということです。

シニア社員の労災対策は2段階で進める

厚生労働省「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」では、シニア社員が安全に働ける職場環境をつくり、労災が起きないようにするためのポイントがまとめられています。このガイドラインによると、シニア社員の労災対策は、次のように2段階に分けて考えるのがよいとされています。

1)(ステップ1)基本的体制の整備とリスクアセスメントの実施

ステップ1では、まず経営者が「シニア社員の労災対策に取り組む」という方針を表明します。安全衛生方針や就業規則等、何に定めるかは自由ですが、経営者の本気度を伝え、「シニア社員の労災は人ごとじゃない」と全社員に認識させることが重要です。
方針を表明したら、実際に労災対策に取り組む担当者・組織を指定します。この辺りは、自社の安全衛生管理体制に合わせて検討するとよいでしょう。安全衛生管理体制の内容は会社の業種・規模によって異なりますが、例えば次のような役割分担が考えられます。

  • 安全管理者:シニア社員の事故防止に関する技術的事項の管理等
  • 衛生管理者:シニア社員の病気の予防・治療に関する技術的事項の管理等
  • 産業医:シニア社員への保健指導、必要な就業上の措置に関する助言等
  • 安全衛生委員会:シニア社員の事故防止や病気の予防・治療に関する調査審議等

体制が整備されたら、一般の社員の意見も聴きつつ、「自社のシニア社員についてどのような労災リスクが想定されるか」を洗い出し、必要な労災対策について検討します。この取り組みを「リスクアセスメント」といいます。リスクアセスメントの進め方については、後ほど具体例を交えて紹介します。

2)(ステップ2)リスクアセスメントの結果に応じた労災対策の実施

エイジフレンドリーガイドラインでは、リスクアセスメントの結果を踏まえ、次の1.から4.までの内容を参考に、労災対策の内容を決めるのが望ましいとされています。

1.職場環境の改善

身体機能の低下を補う設備・装置を導入(照度の確保、段差の解消、補助機器の導入等)します。また、敏しょう性や持久力、筋力の低下といったシニア社員の特性を考慮し、勤務形態を工夫する(短時間勤務、隔日勤務、交替制勤務等)、ゆとりのある作業スピードで業務を行える作業マニュアルを策定する等の配慮をします。

2.シニア社員の健康や体力の状況の把握

健康診断や体力チェックにより、シニア社員の健康や体力の状況を把握します。健康診断については、自社で実施する定期健康診断等の他、地域の健康診断等(特定健康診査等)を活用する方法もあります。体力チェックについては、厚生労働省のチェックリスト、一般の会社が実施しているスクリーニングテスト等の中から、自社に合ったものを選びます。なお、健康診断や体力チェックの結果等は、情報の取り扱いに十分注意しましょう。

3.シニア社員の健康や体力の状況に応じた対応

健康診断や体力チェックの結果等を踏まえ、産業医等の意見を聴きつつ、必要な就業上の措置(労働時間の短縮や深夜業の回数の減少等)を講じます。また、業務内容についても、安全と健康の点でシニア社員に適合する業務をマッチングさせるよう努めます。さらに、健康診断や体力チェックの結果等に基づき、必要に応じて運動指導や栄養指導、保健指導、メンタルヘルスケア等を実施します。

4.安全衛生教育

雇入れ時等の安全衛生教育(シニア社員を新たに雇入れた場合や作業内容を変更した場合)や安全衛生のための特別教育(一定の危険有害業務に就く場合)等、法令に基づく安全衛生教育を確実に実施します。教育の際は、シニア社員が労災リスク等を理解しやすいよう、文字以外の写真や図、映像等の情報も活用します。また、管理監督者等に対しても、シニア社員の労災リスクに対応するための安全衛生教育を実施します。

以降では、前述したシニア社員の労災対策の流れに沿って、図表1で60歳以上の死傷者数が最も多かった「転倒」の防止を検討してみます。

シニア社員に起きがちな「転倒」を防止する方法

1)(ステップ1)エイジアクション100を活用したリスクアセスメントの実施

リスクアセスメントの進め方はさまざまありますが、エイジフレンドリーガイドラインでは、中央労働災害防止協会「エイジアクション100」の活用を推奨しています。
エイジアクション100では、シニア社員(50歳以上を想定)の安全と健康を確保するために必要な取り組み(エイジアクション)がチェックリスト化されています。チェックリストは次の9カテゴリから成り立っていて、全部で100のチェック項目があります。

  1. シニア社員の戦力としての活用
  2. シニア社員の安全衛生の総括管理
  3. シニア社員に多発する労働災害の防止のための対策
  4. シニア社員の作業管理
  5. シニア社員の作業環境管理
  6. シニア社員の健康管理
  7. シニア社員に対する安全衛生教育
  8. シニア社員の勤労条件
  9. 高齢期に健康で安全に働くことができるようにするための若年時からの準備(エイジ・マネジメント)

図表3は、エイジアクション100の中で転倒に直接関係するチェック項目をピックアップしたものです。自社の実情に照らして、結果の欄に「○」「×」「-」を付けてみましょう。

「○」:取組を既に行っており現行のままでよい
「×」:取組を行っていない、または行っているがさらに改善が必要
「-」:対象業務なし、または検討の必要なし

「×」が付いた項目は、放置しておくとシニア社員の労災リスクが高まるので早期改善が必要です。なお、「×」が付いた項目が複数ある場合、危険性の高さ等を考慮して対策の優先順位を決めます。図表3の優先度の欄に数字等を記入して優先順位を明らかにしましょう。

2)(ステップ2)転倒防止のための労災対策の実施

ここでは、図表3のチェック項目に基づくリスクアセスメントの結果を踏まえ、転倒防止のためにどのような労災対策を実施すればよいかを検討してみます。

1.職場環境の改善

「3 シニア社員に多発する労働災害の防止のための対策」の「(1)転倒防止」の中で「×」が付いた項目がある場合、その項目を改善します。通路の幅が狭ければ幅を確保する、階段に手すりがなければ設置するなど、対応自体はシンプルです。

「(1)転倒防止」の項目でやや分かりにくいのが「2.安全な作業靴の着用」ですが、これについても、エイジアクション100に作業靴の選定のポイントが掲載されています。

  • 靴底材の耐滑性が十分にあること(JIS T8101(安全靴)に適合した耐滑性靴には「F」のマークが付されている)
  • 作業靴のかかと部とつま先部で重さのバランスが取れていること
  • 靴を両手で折り曲げた時に、つま先部で折れ曲がること(靴の真ん中で折れ曲がる靴、あるいは全く折れ曲がらない靴はつまずきやすくなる。特に傾斜面作業、しゃがみ込み作業には使用しない方が望ましい)
  • 靴先は若干上に上がっていること
  • 靴のかかと部が適切な高さ(30ミリメートル以下)になっていること

2.シニア社員の健康や体力の状況の把握

「6 シニア社員の健康管理」の「(3)転倒・腰痛等の予防のための体力測定・運動指導」に「×」が付いた場合、まずはシニア社員の健康や体力の状況を把握します。参考になるのは、エイジフレンドリーガイドラインの別添資料「転倒等リスク評価セルフチェック票」です。これは、閉眼片足立ち(目を閉じて片足でどの程度立てるかを計測する)などの身体機能計測の結果と、シニア社員の自己評価(質問票を用いて行う)の結果を、次のようにレーダーチャートで比較するものです。

このレーダーチャートを使うと、「実際の身体機能と本人の自己評価にどのぐらい差があるのか」が明らかになります。例えば、図表4の場合、実際の身体機能が総じて本人の自己評価よりも低く、シニア社員は身体機能の衰えに気付いていないと考えられます。

3.シニア社員の健康や体力の状況に応じた対応

図表4のように、実際の身体機能が本人の自己評価よりも低い場合、シニア社員は自分では大丈夫だと思っていても、緊急時に身体が反応せず転倒する恐れがあります。まずは本人にレーダーチャートの結果を伝え、「身体機能の衰えによる転倒の恐れがあること」を自覚させましょう。
加えて、実際の身体機能が本人の自己評価に追いつくよう、運動指導等を実施します。例えば、厚生労働省「高年齢労働者の安全衛生対策について」では、「転倒・腰痛予防!いきいき健康体操」というYouTube動画へのリンクが掲載されています。動画内では、「転びそうな時とっさに手や足が出せるように」等、目的ごとに転倒・腰痛予防につながる体操が紹介されています。

4.安全衛生教育

3.と並行して、シニア社員本人やその上長となる管理監督者等に対して、転倒の労災リスクに対応するための安全衛生教育を実施します。エイジアクション100では、転倒防止のための教育・指導の具体例として、次の内容が紹介されています。

  • 歩行時に慌てない、急がない
  • すり足歩行にならないように、爪先を上げるようにして歩く(歩く癖を指摘しあうとよい)
  • 階段を下りる時は、必ず手すりを持つ
  • 階段での遠近両用メガネ使用に慣れる
  • 筋力低下は足から来るので、日常生活においては、散歩等も含め、軽い歩行を行う時間を長くするように心がける
  • 転倒防止のための注意標語「ポケテナシ」(「ポ」:ポケットハンドしない、「ケ」:携帯電話・スマホしながら歩かない、「テ」:手すりを持つ、「ナ」:斜め横断しない、「シ」:指差し呼称をする)

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以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年9月17日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
日本情報マート

中小企業の頼れる情報源として、経営者の意思決定をサポートするコンテンツを配信。 「開業収支」「業界動向」「朝礼スピーチ」など2000本を超えるコンテンツを有するほか、年間200件以上の市場調査も行っている。現在、50を超える金融機関に情報提供を行っている。

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