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社員の比較優位を見つけて適材適所を実現する

競争力のある会社にしたい 2016年3月14日

比較優位とは

比較優位とは、英国のデヴィッド・リカードという経済学者が発見した2カ国間の自由貿易に関する理論です。ここには、なぜ貿易が行われるのかという根本的な考え方が隠されていますが、その考え方は適材適所のマネジメントにも応用することが可能です。

まず、比較優位の基本を理解するために、A国とB国の例を見てみましょう。A国では工業製品を1単位生産するのに2の労働力が、農産物を1単位生産するのに4の労働力が必要だとします。一方、B国では、工業製品を1単位生産するのに10の労働力が、農産物を1単位生産するのに5の労働力が必要だとします。なお、工業製品と農産物はそれぞれ1単位当たり1の価値があるとします。

労働力の比較

工業製品と農産物のいずれにおいても、A国の生産性がB国に勝っています(少ない労働力で生産できます)。そのため、投入できる労働力が無限であれば、A国は全てを自国で生産したほうが効率的です。

しかし、現実には投入できる労働力に限りがあります。また、一方の財に労働力を投入すれば、他方の財に投入できる労働力が減少します。例えば、A国で工業製品1単位を生産するためには、2の労働力が必要です。これは、農産物0.5単位の生産と同じです。つまり、A国が工業製品を1単位生産するためには、農産物0.5単位の生産を犠牲にしていることになります。

このように、ある選択をしたために犠牲になった利益(選択できなかった行動から得られる利益)を、経済学では「機会費用」といいます。機会費用とは、その選択によって失った利益(=損失)だといえるので、この機会費用が小さくなるような選択を行うことが合理的です。

両国の機会費用は?

工業製品の生産における機会費用を考えてみます。A国で工業製品1単位を生産するためには、0.5単位の農産物が犠牲になります。つまり、A国の工業製品1単位の生産における機会費用は0.5です。

一方、B国では工業製品1単位を生産するためには、農産物2単位の生産が犠牲になります。つまり、B国の工業製品1単位の生産における機会費用は2です。

両国の工業製品1単位の生産における機会費用を比較するとA国のほうがB国よりも小さいため、B国が工業製品を生産する場合に比べて、A国が工業製品の生産を行ったほうが損失が小さくなります。これを「A国は工業製品に比較優位がある」といいます。

次に、農産物の生産における機会費用を考えてみます。A国で農産物を1単位生産するためには、2単位の工業製品が犠牲になります。つまり、A国の農産物1単位の生産における機会費用は2です。

一方、B国では農産物1単位を生産するためには、工業製品0.5単位の生産が犠牲になります。つまり、B国の農産物1単位の生産における機会費用は0.5です。

両国の農産物1単位の生産における機会費用を比較するとB国のほうがA国よりも小さいため、A国が農産物を生産する場合に比べて、B国が農産物の生産を行ったほうが損失が小さくなります。これを「B国は農産物に比較優位がある」といいます。

こうした状況が明らかになれば、各国が比較優位のある品目に特化して生産し、比較優位のない財は貿易によって入手することが合理的ということになります。これが自由貿易の基本的な考え方なのです。

比較優位を見つけて適材適所を実現する

1)チーム内などの業務分担に応用する

比較優位の考え方は、貿易以外のビジネスシーンにも応用できます。ここでは、比較優位の考え方に基づいて人材配置を考えてみましょう。貿易の場合は財の生産能力を比較しましたが、人材配置の場合は社員の業務遂行能力(業務遂行時間)を比較します。

例えば、食品卸売会社で営業職として働く社員Aと社員Bがいたとします。社員Aは商談1件をまとめるのに15分、企画書1通を作成するのに30分かかります。

一方、社員Bは、商談1件をまとめるのにも企画書1通を作成するのにも40分かかります。先にA国とB国を比較したのと同じ要領で、社員A、Bの業務遂行における機会費用を算出してみましょう。

社員AとBの機会費用

社員Aは商談に比較優位があるため、社員Aには商談に集中してもらったほうが全体としての生産性は最大になるはずです。とはいえ、1人の社員が一つの業務だけを担当するのは現実的ではありません。

営業職であれば、商談も企画書作成も担当しなければならないため、比較優位の考え方に基づく業務分担は、日常的に一つの業務に専念させるのではなく、「主に担当する業務」として応用するとよいでしょう。

2)全社の業務分担に応用する

会社では、営業、研究開発、広報など、さまざまな業務を社員に割り振っていきます。社員の希望や適性に合った業務を担当させることが理想ですが、全てそのようになるわけではありません。こうした場合にも、比較優位の考え方が応用できます。

例えば、食品メーカーで5人の社員のうち2人を研究職に、3人を営業職に割り振るという場合を考えてみましょう。比較優位の考え方を適用する場合、客観的に比較できる指標が必要なので、各社員の適性(業務遂行能力)を数値化します。ここでは「社員がそれぞれの業務を担当した場合にどの程度の価値を生み出すか」という視点から、社員の業務適性を次のように10段階で数値化しました。

社員A:研究職では10、営業職では6
社員B:研究職では7、営業職では6
社員C:研究職では4、営業職では10
社員D:研究職では5、営業職では2
社員E:研究職では8、営業職では8

研究職として最も大きな価値を生み出すのは社員A、次が社員Eです。ここだけに注目すれば、社員Aと社員Eを研究職に配置するのが最適です。しかし、会社全体として考えた場合の結果は異なります。

早速、比較優位を適用してみましょう。この場合、機会費用が小さい社員が当該業務について比較優位があると考えます。つまり、研究職における機会費用が小さい順に2人を研究職に割り振ることで、全体として生み出される価値が最大になるはずです。各社員の業務の機会費用は次の通りです。

社員A~Eの機会費用

研究職における機会費用が最も小さいのは社員D、次が社員Aで、生み出す価値が高い順に選ぶ場合とは社員が異なっています。また、生み出す価値が高い順に選ぶ場合と、機会費用が小さい順に選ぶ場合の、各社員が生み出す価値の和は次の通りです。

各社員が生み出す価値の和

社員Dが研究職で生み出す価値は、社員Cに次いで低いものです。そのため、一見すると社員Dを研究職に割り振るのは合理的ではないと考えられます。しかし、会社全体で考えると、社員Dを研究職に割り振ったほうが価値が最大になります。

なお、この例では会社全体の価値最大化を目指していますが、会社が強化したい特定の分野に注目する場合もあります。研究分野の強化が目的であれば、やはり研究職において生み出す価値が高い社員を割り振るのがよいでしょう。

数値化がカギ

比較優位を応用するには、社員の能力や適性をある程度正確に把握しておく必要があります。商談と企画書のように、同じ部署内での業務の割り振りであればいいのですが、部署自体の割り振りという場合では、社員にそれぞれの業務を経験させ、上司がしっかりとその能力・適性を見極めなければなりません。

また、機会費用の算出に当たっては客観的に比較できる数値が必要になるので、上司は、社員の能力・適性を数値化しなければなりません。そのため、比較優位を業務で利用するには、研修やジョブローテーションなどで社員に複数の部署で業務を経験させるとともに、評価する上司によってバラツキが出ないよう、数値化のための基準を設ける必要があります。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年3月7日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
日本情報マート

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