フレームワークを使った経営環境分析の進め方

競争力のある会社にしたい 2016年3月9日

経営環境分析の重要性

経営戦略を策定する際は、まず自社の基本的な価値観となる経営理念とビジョンを明文化する必要があります。その上で、自社の経営環境を把握するための外部環境分析、自社の保有する経営資源を把握するための内部環境分析を行い、その結果を総合することで自社の強みと弱み、機会と脅威を明らかにします。その後、自社がどのような市場をターゲットとして経営戦略を展開していくかを決め、具体的なアクションプランとして事業戦略や機能別戦略を策定します。事業戦略は、地域別、事業部別など経営環境の違いに着目して立案します。また、機能別戦略は、マーケティング部門、財務部門など各部門に求められる機能に着目して立案します。

このような、経営戦略の策定時のファーストステップが経営環境分析です。自社の置かれている立場を正しく認識することは、自社の進むべき道を考える上で不可欠であるといえるでしょう。

外部環境分析の手法

企業を取り巻く外部環境を分析する代表的な手法のうち、PEST分析、5Forces分析について紹介します。経営環境の分析については、外部環境分析と内部環境分析のどちらから手を着ければよいのか分からないという声を聞くことがあります。実効性のある経営戦略を策定するためには、自社の置かれている外部環境を踏まえた上で自社の経営資源の持つ強みを確認する必要があるので、初めに外部環境分析を行い、それを踏まえた内部環境分析を行いながら、必要に応じて追加的に外部環境分析を行うというのが基本的な手順です。

1)PEST分析

PEST分析は、企業を取り巻く経営環境を、政治的環境要因(Politics)、経済的環境要因(Economy)、社会的環境要因(Society)、技術的環境要因(Technology)という4つの視点で分析する手法です。PEST分析の切り口は次の通りです。

PEST分析の切り口

PEST分析は、企業を取り巻く外部環境について包括的な視点で分析を行う手法の1つですが、業種、規模、タイミングによって重視すべき視点は異なります。

例えば、政治的環境要因に挙げられている消費税率の引き上げは、規模を問わず幅広い業種に影響を与える要因ですが、毎年や毎月など定期的な対応が必要になるわけではありません。また、小売業における価格表示の扱いなど、業種によって必要な対応は異なります。一方で、経済的環境要因に挙げられている為替相場の変化は、影響を受ける業種は海外取引のある企業に限られるかもしれませんが、刻一刻と変化するものであり、その変化に応じて対策を取る必要があります。

PEST分析では、まず外部環境要因について、4つの視点に沿って概観し、その後に自社にとって影響が大きい要因について、その影響度合いを深掘りするとよいでしょう。

1.政治的環境要因(Politics)
政治的環境要因とは、政策・法律・条例などの政治的な要因によって生じる環境の変化です。政治的な環境変化の特徴は、その発生が非連続的であることです。通常、他の3つのマクロ環境変化(経済的環境要因、社会的環境要因、技術的環境要因)は、時間の経過につれて少しずつ変化していくものです。

しかし、政治的環境要因の変化は「20XX年Y月から施行」というように、変化が起きる時期が定められます。このため、それ以前の政治的環境に適合していたビジネスが、ある日を境に成り立たなくなるという特殊性があります。特に多くの規制がある業界などは、その変化に十分注意しなければなりません。

政治的環境要因の変化を対応の緊急度でまとめると、次の3種類に分類できます。これらを混同すると、政治的環境要因の変化が自社に与える影響を見誤る恐れがあるばかりか、事業活動の方向性を誤る危険性も出てきます。

  • 実施される時期が既に決定しており、改正ポイントなども明確になって周知されているものは、早急にその対応を実現し、事業活動に反映させる
  • いずれは実施されるものとして周知されているが、その時期などに関しては流動的であるものは、いつ実施されても対応できるような対応策を検討し、迅速に事業活動に反映できる体制を整える
  • いずれは実施しなければならないと認知はされているが、具体的にどのようになるかについては白紙状態のものは、審議会などの検討状況から実施に向けた進捗度合いなどの情報を収集、分析する

2.経済的環境要因(Economy)
経済的環境要因とは、マクロ経済の変化です。マクロ経済の変化に関しては、多くの経営者が報道などを通じて理解していると思いがちです。しかし、そのほとんどは大まかな傾向を理解している程度でしかありません。

経済的環境要因は必ず数値で押さえる必要があります。変化が誰の目にも明らかになってしまった時点(つまりマスコミなどが大きく報道した時点)では、既に他社が変化への対応を完了させています。変化の最初の兆しは小さなものですが、この兆しを見落とさないためにも、自社の事業に関連性の高い経済指標はこまめに押さえておくべきでしょう。経済的環境要因に関しては、地域紛争などの突発的な事象が発生しない限り、おおむね一定のトレンドを示すものがほとんどです。このトレンドを把握した上で、マクロ経済、ひいては自社の事業に与える影響を検討していきましょう。

3.社会的環境要因(Society)
社会的環境要因とは、人口動態やライフスタイルなどの変化です。これらの変化から、自社の事業に関連性の強い社会的動向を分析します。

人口動態は、経済的環境要因と同様に1年単位では変化が顕在化しにくいため、5年単位や10年単位といった長期的な視点で把握していくことがポイントです。また、トレンドなどは定量的に把握しにくいものですが、業界団体の研究資料などを確認することで、業界に与える影響を大まかに把握することができます。これだけにとどまらず、業界団体・シンクタンク・金融機関のリポートなどのような第三者的な意見で作成されている情報も収集・分析するとよいでしょう。

なお、社内の意見だけで検討を加えると、どうしても自社に都合の良い近視眼的な意見が大勢を占めてしまうため、冷静かつ客観的に変化を捉えられなくなる恐れがあります。

4.技術的環境要因(Technology)
技術的環境要因とは、文字通り技術革新などにより生じる変化です。特に製造業においては、技術的環境要因は自社の事業基盤そのものを揺るがすことにもなるので、十分な検討が必要です。製品関連の技術動向のみならず、生産技術や代替技術が誕生する可能性などについても検討しましょう。

特に基礎技術が海外からもたらされるような業界の場合、海外での技術動向の変化などを学会発表や学会誌、あるいは親密な関係にある研究者などから収集するように努めましょう。小売業やサービス業においても、例えばICタグなどの店舗オペレーションや物流管理へのITの活用などには十分に注意を払う必要があります。

2)5Forces分析

5Forces分析では、企業を取り巻く経営環境における競争要因として、買い手の交渉力、売り手の交渉力、新規参入の脅威、代替品の脅威、業界内の競合他社の5つの力が働くとしています。5Forces分析のチェックポイントは次の通りです。

5Forces分析のチェックポイント

5Forces分析では、まずは図表2のチェックポイントを基に業界における競争状況について把握します。競争力が強い分野はそれだけ収益低下圧力が強いため、競争要因にどのように対応するのか、競争の影響を受けないようにどのようなポジショニングを選ぶのかなどが重要になります。なお、競争要因への対応を考える際には、後述する内部資源などの視点も勘案する必要があります。

1.買い手
自社製品のユーザーは常に変化します。企業はこの変化に敏感にならなければなりません。ユーザーのプロフィール・購買決定要因・価格や品質への反応などに変化が表れた場合、従来とは異なる取り組みが求められることがあります。顧客情報管理の充実や取引履歴の分析などを継続して行いましょう。

2.売り手
サプライヤーの変化は自社製品の価格や品質に大きな変化をもたらします。最悪の場合には、製造用の部品が調達できずに、自社製品の製造ができなくなるリスクもあります。個々の購買担当者に任せきりにせずに、企業として情報の収集・分析に取り組みましょう。

3.新規参入業者
強力な新規参入業者が現れた場合、業界の構造が大きく変わってしまいます。優れた技術や新たなビジネスモデルを持った企業の新規参入は、既存業者にとっては大きな脅威です。資本力を持つ大手企業の新規参入の可能性には特に注意を払いましょう。

4.代替品
圧倒的な技術や価格での優位性を持つ代替品の出現は大きな脅威となります。特にインターネットの普及により、思わぬ業界や業者が代替品を投入してくることがあります。同業界はもちろんのこと、少なくとも隣接業界については継続的な情報収集・分析が必要です。また、自社が新製品や代替品を市場投入する場合は、既存業者への対応策などについてもあらかじめ検討しましょう。

5.業界内の競合他社
業界全体の動きを決定する業界大手企業の動向や自社の営業地域に存在する個別の競争業者の動向を分析します。特に、大手企業の戦略転換は業界そのものに大きな影響を与えます。日ごろから情報の収集・分析を進め、他社よりも早く策を講じることのできる体制を整えなければなりません。

内部環境分析の手法

ここでは、企業が保有する経営資源などの内部環境を分析する代表的な手法のうち、バリューチェーン分析、VRIO分析の概要について紹介します。

1)バリューチェーン分析

バリューチェーン分析は、企業が顧客に価値を提供する際の経営機能(企業活動など)のつながりをバリューチェーンとして表し、それらの機能ごとに自社の保有する経営資源を分析する手法です。 メーカーを想定したバリューチェーンの例は次の通りです。

メーカーを想定したバリューチェーンの一般例

バリューチェーン分析では、企業の活動をバリューチェーン上の機能に分解することで、どの部門が商品にどのような付加価値を付けているのか、どのような活動が競争優位につながっているのかを示すことができます。一方で、他社のバリューチェーンと比較することで、自社の強みと弱みを相対的に把握することもできます。

2)VRIO分析

VRIO分析は、経済価値(Value)、希少性(Rarity)、模倣困難性(Inimitability)、組織(Organization)という4つの視点から、企業に競争優位をもたらす経営資源を分析する手法です。VRIO分析の切り口は次の通りです。

VRIO分析の切り口

VRIO分析では、経済価値、希少性、模倣困難性、組織の順に経営資源を分析していきます。ある経営資源について、顧客が価値を認め、希少性がある場合には、その経営資源は競争優位性を持つといえるでしょう。さらに、模倣困難性があるならば持続的な競争優位を築くタネとなるでしょう。そして、組織体制が整って初めて経営資源を有効に生かし、持続的競争優位を築くことができます。

総合分析の手法

外部環境と内部環境の分析結果をまとめる代表的な手法のうち、SWOT分析の概要を紹介します。SWOT分析では、外部環境分析で得られた知見から、自社にとっての機会(Opportunities)と脅威(Threats)を分析します。一方、内部環境分析で得られた知見から、自社の強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)を把握します。SWOT分析の視点は次の通りです。

SWOT分析の視点

外部環境分析から企業が直面する機会と脅威を分析する際は、PEST分析、5Forces分析で得られた知見が役立ちます。経営戦略を策定する際に、外部環境の分析結果を重視する考え方として、ポジショニング理論があります。ポジショニング理論では、外部環境の分析結果から企業が競争優位を発揮できる市場を自社のドメイン(事業領域)として、競争優位性を築くことができるように経営戦略を立案します。

一方で、内部環境分析から自社の強みと弱みを分析する際には、バリューチェーン分析、VRIO分析で得られた知見が役立ちます。経営戦略を策定する際に内部資源の分析結果を重視する考え方として、リソース・ベースト・ビューがあります。リソース・ベースト・ビューでは、持続的な競争優位をもたらす経営資源を有効に活用できる市場をドメインとして、競争優位性を築くことができるように経営戦略を立案します。

ポジショニング理論とリソース・ベースト・ビューの考え方は相互補完関係にあります。どちらを重視するかはそれぞれの企業が置かれている経営環境によって異なりますが、経営戦略立案の際には両者の考え方を生かす必要があります。これらの分析結果を踏まえ、ターゲットとなる市場を決定し、その市場を対象に経営戦略を立案するというのが一連の流れになります。さらに、全社的な経営戦略を事業部単位や機能単位にブレークダウンすることで、事業戦略や機能別戦略が立案されます。

中小企業では、経営戦略の立案に時間をかけられないケースも多いでしょうが、自社の進むべき方向性を明文化し、社内の求心力を高めるためにも、経営戦略の立案に取り組んでみてはいかがでしょうか。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年3月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
日本情報マート

中小企業の頼れる情報源として、経営者の意思決定をサポートするコンテンツを配信。 「開業収支」「業界動向」「朝礼スピーチ」など2000本を超えるコンテンツを有するほか、年間200件以上の市場調査も行っている。現在、50を超える金融機関に情報提供を行っている。

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