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自社の強みを生かした新事業開発の着眼点

競争力のある会社にしたい 2016年3月10日

自社の強みを生かした新事業開発

「既存事業の閉塞感からの脱却」や「経営環境の変化への対応」を目的に、新事業への進出を検討する中小企業は少なくありません。新事業を成功させるために重要なことは、中小企業が新事業で成功する上での必須条件である「自社の強み」をどのようにして発見し活用するかです。

新事業の方向性を検討する

企業は既存の市場や顧客層を対象にして既存事業を行っているだけでは、市場の成熟化とともに売り上げが減少していく可能性があります。このため、企業が成長を続けるためには新事業開発の視点が欠かせません。

新事業開発の際に参考になる考え方に、「事業・製品」「対象市場・顧客層」を軸とする、新事業開発に関する基本戦略を示した「アンゾフの成長マトリクス」があります。アンゾフの成長マトリクスと基本戦略は次の通りです。

アンゾフの成長マトリクスと基本戦略

1)市場浸透戦略

既存の顧客層に対して既存の製品・サービスを投入するビジネスモデルを再構築・効率化していく戦略です。この戦略では、現状の事業運営の方法を徹底的に見直していくことで、収益を確保・拡大する戦略を構築することが重要なポイントです。見直す対象は「購買物流」「製造」「出荷物流」「販売・マーケティング」「サービス」など事業の各段階における運営手法や組織形態などです。これは、業務オペレーションなどの面で優位性を築くことができる企業に適した戦略といえるでしょう。

2)新市場開拓戦略

既存の製品・サービスを使って新たな顧客層を開拓していく戦略です。この戦略では、自社製品・サービスの「提供価値」が重要なポイントになります。このため、企業は既存の顧客が自社の製品・サービスのどのような部分に価値を感じているのかを丁寧に分析する必要があります。つまり自社が提供している製品・サービスのメリットを分析し、そのメリットを認めてもらえるような新たな顧客層を探索することが成功の鍵になります。そして、そのような新たな顧客層(見込み客層)を開拓していくための営業戦略を構築し実施していくことになります。

3)新製品開発戦略

既存の顧客層に対して、新たな製品・サービスを提供して成長を図ろうとする戦略です。この戦略では、製品開発・技術開発面での能力やノウハウも重要ですが、何よりどれだけ既存の顧客を知り抜いているかという顧客管理・分析能力が重要なポイントになります。なぜなら、既存の顧客の考え方、業務プロセス、ニーズ、購買能力などを十分理解していなければ新製品の提供はうまくいかないからです。これは、特定の顧客層に対して優位性がある企業に適した戦略といえるでしょう。また、製品・サービス自体は、外部からライセンス供与などにより導入することも可能です。

4)多角化戦略

新たな顧客に新たな製品・サービスを提供していく、つまり全く別の新規分野の事業への進出を図ろうとする戦略です。この戦略では、事業・製品面、対象市場・顧客層面の双方で関連の薄い事業分野への進出となるため、経営環境分析を徹底的に行った上で、新たなビジネスモデルを構築しなければなりません。また、既存事業から得たノウハウや能力面を何らかの形で有効に機能させる必要があります。基本的には非常にリスクの高い戦略なので、経営資源に限りのある中小企業の場合、実行に移す前に十分な検討を重ねる必要があります。

自社の「強み」を発見する

ここまで紹介してきた新事業開発パターンは、企業が持つ「顧客」「製品・サービス」「独自能力」といった3つの要素に関連します。そのため、企業が新事業開発を検討する際の切り口として、自社が持つ3つの要素(「顧客」「製品・サービス」「独自能力」)の分析・把握を行い、その可能性を探っていくことが重要となります。

自社が「顧客(Customer)」「提供価値(Value)」「独自能力(Core Competence)」の3つの要素でどのような強みを保有しているかを検討するための分析手法を「CVCC分析」と呼びます。この3つの要素が重なり合う場所が、自社の事業ドメインとして適しています。

1)顧客(Customer)分析

法人向けの生産財を取り扱う企業は「パレート分析」を利用します。パレート分析とは、例えば「自社の利益の80%は20%の優良顧客によってもたらされている」といったように、どのような属性を持つ顧客が売上高や利益のどの程度を占めているのかを、シェアの高いほうから順番に並べて図式化する分析手法です。パレート分析を行うことで、自社の売上高や利益に対して、どのような顧客がどの程度貢献しているのかを把握できるため、顧客管理効率の向上が期待できます。

なお、パレート分析を行う際は、事業単位ごとに実施しなければ役立つ分析結果が得られません。これは事業分野あるいは取り扱い製品・サービスにより、顧客単位別の売り上げの多寡、利益率の高低が必ず存在するため、全社での単純な「上位客何社」であるとか「優良顧客何名」というような分析を行うと、事業ごとの実態を十分に把握できないからです。パレート分析のイメージは次の通りです。

パレート分析のイメージ

構成比60%までを占める顧客層をAクラス、60%から90%までをBクラス、90%から100%までをCクラスとして規定します。この分析によって明確になったAクラス顧客層を自社の中心的かつ代表的顧客として設定し、対象顧客が法人の場合には、次のような切り口でプロファイル(顧客像)を明らかにしていきます。

  • 業種・業態:
    垂直的な業界構造を持つ場合には、顧客がどの業種や業態に属しているのかを把握する。
  • 事業規模:
    売上高、利益率、従業員数、年間出荷量などの全社的な数値、および工場・営業所などの事業所数、工程ライン数などの個別の条件的数値も検討する。
  • 用途分野:
    どのような製造工程を持つ企業の、どの工程で使われているのかを把握する。
  • 地域特性:
    どのような地域で売れているのかを把握する。なお、必ずしも自社の営業拠点と一致するわけではないことに留意が必要。

一方、一般消費者向けの消費財を取り扱う企業の場合は、顧客カードやポイントカードの申込書に記載されている顧客情報データやPOSデータから得られる購買履歴などを基に分析していきます。自社に顧客データが集積されていない場合には、店頭での目視による顧客タイプ調査を実施することで代替することができます。顧客タイプは次の切り口でグルーピングし、自社に特有の顧客タイプを把握するのが一般的です。

  • 人口統計学的基準(年齢、性別、家族構成、所得水準など)
  • 心理的基準(ライフスタイル、パーソナリティーなど)
  • 購買行動基準(使用率、特定ブランドへのロイヤルティーなど)
  • 地理的基準(地域、気候風土、人口密度など)

なお、この顧客構造分析の際に注意しなければならないのは、分析を行う企業側の予見をできるだけ排除しなければならない点です。日ごろ顧客と直接接触している営業担当者などが分析を担当すると、実際のデータと営業担当者自身の予見とのギャップが大きい場合に、予見に基づきデータを意図的に間違った方向でグルーピングするといった事態が発生することもあります。これは生産財・消費財ともに発生しやすい現象です。また、分析担当者が事前に営業担当者に対するヒアリングなどにより予見を植え付けられている場合にも、このような現象は起こりやすくなります。分析に着手する段階で必要以上に仮説を立てることは、実態を見誤る原因となりかねません。

2)提供価値(Value)分析

顧客が自社の製品・サービスを採用することで実現できる価値の本質を見極めます。これは、顧客からすればメリットであり、企業からすれば製品・サービスを提供する価値(提供価値)ということができます。

提供価値を検討する際に必ず顧客側の視点に立ち、「なぜ、自社製品・サービスが採用されているのか」を分析します。この分析がなければ、顧客の購買決定要因と企業が考える事項に関する理解の相違(あるいは企業側の思い込み)を払拭できません。

自社の提供価値に関しては、定期的な顧客満足度調査やヒアリングを通じてデータを収集します。自社の製品・サービスの採用理由に関し、複数のキーワードを基に選択してもらい、その回答を整理して分析します。

提供価値の分析に関しては、収集されるデータはどうしても定性的なものになってしまいます。このため分析担当者の予見などが入りやすくなるため、アンケート項目は慎重に設定しなければなりません。

アンケート調査の項目は、まず「自社もしくは自社ブランドを認知しているかどうか」といった設問から始めるとよいでしょう。仮に「購買」という設問グループであれば、次に購買経験の有無、購買した製品・サービスの種類、購買時期といったように次第に内容を詳細にしていきます。また、設問の最後には、フリーコメント欄をやや広めに置いて、定性的かつ自社が想定しなかったような回答が得られるように工夫しなければなりません。

3)独自能力(Core Competence)分析

自社が競合他社と比較して優位性を有しているのはどのような能力であるかを検討します。独自能力に関しては、どうしても恣意的・主観的になりがちなため、これを避けるために、次のような切り口で、可能な限り定量的に判断することを心掛けます。

1.特許などの知的財産権に代表される技術的独自性・優位性
技術的側面で独自能力を検討する際には、自社の特許申請・出願件数の推移を把握した上で、その特許などの技術的な優位性が業界でどのように評価されているか、競合他社やベンチマーク対象企業と比較してどのような地位にあるかを検討します。実務上は特許などにより保護されている権利範囲の比較が必要です。

また、研究開発予算や研究設備・人員の推移などについては、競合他社との比較も行い、可能な限り客観的な評価を心掛けます。

2.店舗運営などに関してマニュアルなどに整備された独自ノウハウ
店舗運営などでの独自ノウハウがあれば出店数の推移、1店舗当たりの売上高や収益率の推移を競合他社と比較して、市場での評価や業界内での地位を定量的に把握するように努めます。その他の指標としては、従業員数の伸び率なども業務の効率性を比較する上で重要となります。

3.生産設備の生産性、独自性
生産設備面に関し、生産性については従業員1人当たりの利益や労働生産性などについて、業界平均並びにベンチマーク対象企業との比較を行います。設備の独自性については、その設備によって生産される製品の市場シェア推移などを参考にすると客観的判断を行うことが可能です。

4.資材仕入れなどに発揮されるサプライチェーンの運営能力
サプライチェーンの運営能力については、原価率を業界平均と比較することなどにより、仕入れ能力の差異を検証していきます。

5.営業拠点数や営業担当者1人当たりの生産性に反映されるマーケティング能力
マーケティング能力については、自社の営業拠点数の推移、売上高推移、営業担当者1人当たりの売上高並びに営業利益額の推移などを、業界平均や競合他社と比較した上で判断します。

6.価格決定の際などに発揮されるブランド力
顧客満足度調査や顧客へのヒアリング調査などによって、ブランドイメージ、顧客ロイヤルティーの源泉の把握を行います。

経営資源を活用する際の9つの視点

新事業開発の方向性が定まった後は、それを実践するための方法を検討します。実践方法の検討とは、自社の限られた「ヒト」「モノ」「カネ」並びにノウハウや情報などの「ナレッジ(知的資源)」という4つの経営資源をいかに活用していくかを具体化するということです。

ここでは、新たな経営資源活用方法を検討する際に有用な、オズボーンのチェックリストを紹介します。オズボーンのチェックリストでは、次の9つの視点から経営資源活用方法の検討をしていきます。

1)転用

今ある資源を他の使い方に転用していくという考え方です。過剰設備の転用や遊休不動産の有効活用、人事異動、ノウハウの新製品への活用などがこれに該当します。

2)応用・借用

他社の特許ライセンスの利用や公設試験研究機関の設備利用、あるいは競合する製品の模倣やリバースエンジニアリングなどを少ないコストで自社に導入していくという考え方です。海外や他の地域などで成功している事業モデルを研究して自社のものとする方法もこれに該当します。

3)改良

既存製品の改良やマーケティング手法の改良、生産手法の改良など、大規模な経営資源の追加投入を行うことなく、より高度なものにしていく手法です。

4)拡大

販売チャネルや対象顧客層の拡大、製品ラインアップなど既存のものをベースに周辺部分を大きくしていく考え方です。

5)縮小

既存の資源で有効活用されていないものを縮小させることで効率化を図る手法です。コストダウンや生産設備の縮小などの他に、販売チャネルや顧客の絞り込み、製品ラインアップの特化などもこれに該当します。

6)代用・代替

原材料・部品などの代替品への転換、事務作業などのアウトソーシングなどで効率化していく手法です。

7)組替経営資源

人事異動などによる組織構成面での経営資源の組み替えや、営業活動地域の変更、生産拠点の配置の修正、原材料仕入の地域別構成の変更など、組織的・物理的・地理的な組み替えにより資源活用を効率化していく考え方です。

8)逆転

賃金制度における「年功給」比率と「成果給」比率の逆転や、拠点型の自社営業から代理店型のチャネル営業への転換、競合他社との共同物流などの方針面での逆転などにより、新たな効果を生み出そうとする考え方です。

9)統合

事業の統廃合や他社との戦略的アライアンス(提携)など組織面での統合による経営資源効率化と、販売チャネルの一本化や代理店制度の見直しなど拡散している資源を集約化することで効果を上げようとする考え方です。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年3月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
日本情報マート

中小企業の頼れる情報源として、経営者の意思決定をサポートするコンテンツを配信。 「開業収支」「業界動向」「朝礼スピーチ」など2000本を超えるコンテンツを有するほか、年間200件以上の市場調査も行っている。現在、50を超える金融機関に情報提供を行っている。

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