競争ルールを抑えた新製品開発のセオリー

競争力のある会社にしたい 2016年3月11日

競争優位構築の定石

1)ポーターの基本戦略

1.競争優位を築くための基本戦略
 競争優位を築くための基本戦略として、マイケル・E・ポーターが示したのが「コストリーダーシップ戦略」「差異化戦略」「集中化戦略」の3つです。競争の基本戦略は次の通りです。

競争の基本戦略

コストリーダーシップ戦略とは、競合他社よりも低いコストを実現し、コスト優位性を競争優位の源泉とする戦略です。

差異化戦略とは、商品・サービスの機能、デザイン、メンテナンスなど業界内で競合他社とは異なるポイントを創造し、その価格面以外の独自性を競争優位の源泉とする戦略です。

集中化戦略とは、市場を細分化し、特定の買い手、製品、地域などに経営資源を集中的に投下することによって、より顧客ニーズに特化した価値を提供することを競争優位の源泉とする戦略です。集中化戦略は、コストリーダーシップ・差異化を組み合わせたコスト集中戦略・差異化集中戦略に分類することができます。

2.コストリーダーシップ戦略と差異化戦略を両立させた事例
コストリーダーシップ戦略と差異化戦略の両立を目指すと、どちらの取り組みも中途半端になってしまい、大きな成功を収めることが難しいといわれることがあります。しかし、実際に2つの戦略を両立させて成功を収めている企業もあり、現在ではコストリーダーシップ戦略と差異化戦略の両方を追求しても成功を収めることができると認識されています。

例えば、カットのみを10分1000円で行うQBハウス(キュービーネット)は、1000円という低価格と10分間というスピードでコストリーダーシップ戦略と差異化戦略を両立させて事業を拡大してきました。また、2012年に新規参入が相次いだLCC(格安航空会社)も、より安価に航空サービスを提供するという観点で競合他社との差異化を図った事例といえます。

従って、基本戦略に基づいて競争戦略を検討する際には、「コストリーダーシップ戦略」か「差異化戦略」か「集中化戦略」かという点だけではなく、これらの戦略の両立を図るという視点も重要です。

2)コトラーの競争地位別の考え方

競争優位を築くための基本戦略は、全ての企業に共通する基本的かつ本質的な考え方です。それに対して、市場における相対的な地位の違いに着目した競争戦略の考え方があります。具体的には、市場における相対的な地位を「リーダー」「チャレンジャー」「ニッチャー」「フォロワー」の4つに分類し、それぞれの地位に応じて望ましい競争戦略を示したものです。相対的地位に基づく競争戦略の考え方は次の通りです。

相対的地位に基づく競争戦略の考え方

1.リーダーの戦略
リーダーとは、一般的に業界における市場シェア1位の企業をいいます。リーダーの地位にある企業にとって望ましい競争戦略は次の通りです。

  • 周辺需要の拡大:
    周辺需要の拡大とは、既存の市場内のシェアを拡大させるのではなく、これまで顧客ではなかった層にも拡販することにより、市場全体のパイを広げることをいいます。市場シェアの大きいリーダー企業は、市場を拡大させることで競合他社よりも大きく売り上げを伸ばすことができます。
  • 同質化:
    リーダーに追随するチャレンジャーは、リーダーとの差異化戦略が望ましいとされています。これに対して、リーダーはチャレンジャーの戦略と同様の戦略を取ります。そうすることにより、チャレンジャーが目指した戦略の差異化の取り組みを無力化することができると同時に、豊富な経営資源を背景にチャレンジャーとの競争に打ち勝つこともできます。
  • 非価格競争:
    自社のドメインとなる市場で競合他社との価格競争に応じた場合、リーダーの利益の減少額は大きなものとなります。そのため、リーダーは新商品の開発に注力したり、アフターサービスを充実させるなど、可能な限り価格競争を回避することが望ましいといえます。
  • 最適シェアの維持:
    市場シェアが一定の水準に達すると、それ以上拡大するためのコストが割高になり、収益性が低下する場合があります。従って、リーダーは収益性を低下させないように最適な市場シェアの維持に配慮しなければなりません。

2.チャレンジャーの戦略
チャレンジャーとは、リーダーに次ぐ市場シェアを占める企業をいいます。チャレンジャーの競争戦略上の大きな目的は、リーダーの地位の奪取です。しかし、リーダーと同様の競争戦略では、その地位を奪取することは困難です。従って、チャレンジャーは、品質面や価格面などでリーダーとの差異化を図る必要があります。

3.ニッチャーの戦略
ニッチャーの目的は、リーダーやチャレンジャーが重視する市場シェア拡大ではなく、特定市場において確固たる地位を築き、利益を確保していくことです。そのため、ニッチャーは集中化戦略を展開します。また、限られた市場ではあるもののニッチャーは特定市場内で大きなシェアを占めています。そのため、ニッチャーは特定の市場内においてリーダーと同様に、「周辺需要の拡大」「同質化」「非価格競争」といった戦略を取ります。

4.フォロワーの戦略
チャレンジャーのように、リーダーの地位を狙うことのできないフォロワーは、成功を収めているリーダーやチャレンジャーの模倣が競争戦略の基本となります。ただし、リーダーやチャレンジャーと同様の競争戦略では、リーダーやチャレンジャーに敗れてしまいます。類似した製品を販売するなど、同じような競争戦略を取るフォロワーが市場で一定の地位を占めるためには、価格面で勝負することになります。従って、フォロワーはコストリーダーシップ戦略を展開します。

新製品の6つの分類

製造業が経営革新を実現し、成長を果たす上で一般的かつ効果の高い戦略として挙げられるのが、「市場において、競合他社と明確な差異化が実現できているなど圧倒的な優位性を有する自社製品の開発」です。産業構造的に下請け企業が圧倒的に多数である製造業界において、市場競争力を有する自社製品を保有することは下請けからの脱却を図る上でも非常に有効な手段といえます。

企業が新製品開発と位置付けるものは、次の6種類に大別できます。

1)全く新しい製品

自社にとっても市場にとっても従来存在しなかった製品カテゴリーを生み出す革新的な製品や、新しい市場を創造するような製品です。

2)新製品ラインとして位置付けられる製品

自社にとっては従来取り扱わなかったような新製品ですが、市場にとっては既存製品として位置付けられる製品です。

3)既存ラインへの追加製品

自社もしくは市場にとって、既存の製品ラインを拡張させるようなタイプの製品です。

4)既存製品の改良製品

既存製品の性能や提供価値を向上させた改良品です。

5)従来とは異なる顧客層をターゲットとする製品

従来とは異なる新しい顧客層をターゲットとして開発される、既存製品に類似した製品です。

6)コスト削減による低価格化製品

従来の製品と同様の性能や価値を有するが、より低いコストで提供するような製品です。

企業が新製品として市場に投入する大多数は「2)新製品ラインとして位置付けられる製品」「3)既存ラインへの追加製品」「4)既存製品の改良製品」です。これらは既存市場への後発製品であり、市場投入効果も限定的です。一方、「5)従来とは異なる顧客層をターゲットとする製品」は、ニッチ市場を創造する可能性がありますが、既存製品を基盤とするため競合企業が模倣品を使って参入することが比較的容易です。また、「6)コスト削減による低価格化製品」は、圧倒的な低コスト化を実現できれば市場のシェアホルダーになれる可能があります。しかし、通常、中小企業が大手企業との価格競争に陥った場合、競争地位の安定は期待しにくいのが現実です。このため、中小企業が目指すべきは、経営革新が期待できる「1)全く新しい製品」となります。

新製品開発のための着眼点

1)法人向け:顧客のプロセス・ニーズを発見する

法人の生産財を開発する場合、顧客が既に認識している個別ニーズ(例えば、自動車開発の例だと、加工速度の向上、操作性の向上など)に焦点を当てても既存製品の改良にしかなりません。着目すべきは、多くの顧客において業務遂行上のボトルネックになっている問題や、製造工程上どうしても解決しなければならない問題でありながら、根本的な解決策が見つからないまま場当たり的な対応をしている、あるいは放置しているというような、「業務プロセス上の潜在ニーズ(問題があることは分かっているが具体的にどう解決すべきかが分かっていないもの)」です。

このようなプロセス・ニーズに対応した新しい製品であれば、その提供価値が顧客の業界で認識され、継続的かつ広範に採用が進むことが期待されます。

ただし、既にそのニーズを不完全ながらも解決可能な競合他社の先行製品が存在し、処理能力が若干向上した程度の後発製品でしかない場合は、よほど低価格の製品でなければ顧客から採用される可能性は低いかもしれません。

2)消費者向け:製品が生み出す提供価値と知覚価値で差異化する

消費者向け製品の場合、「本当に享受しようとしているメリットは何か」という顧客への提供価値を重視して製品企画を行う必要があります。消費者が購買活動を行うのは、あくまでもその製品によって得られる価値に納得した場合です。

消費者が納得する提供価値を実現できれば、消費者の購買意欲を喚起できます。しかし、技術変化のスピードが速い業界では、新製品や新機能の陳腐化も速く、投資した経営資源を回収できないうちに製品寿命が終了することもあります。中小企業が製品開発を考えるときには、このような技術変化のスピードが速い製品を対象とした開発や改良は避けたほうがよいかもしれません。

消費者向けの新製品を企画する際に注意したいもう1つの観点が、その製品が消費者の五感に訴えるものであるかどうかです。実際にその製品を見て、聞いて、触って、あるいは実際に使ってみて、驚きや感動を与えられるものでなければカタログ上のスペックがいくら良くとも従来品や競合品から乗り換えてくれることはありません。使いやすい、見やすい、あるいは手に持って好ましい重さであるなど、人間の知覚を刺激する価値を持つものがヒット商品になる傾向があります。

標準的な新製品開発プロセス(4つのステージ)

1)第1ステージ:製品コンセプト開発

この段階では可能な限り多くの製品化アイデアを集めることが重要です。集められたアイデアの中から有望なものを抽出し、それらを基にして製品コンセプトをまとめていきます。この際に特に重視すべきポイントは次の通りです。

  • どのような顧客にどのような価値を提供するのか
  • 内容に曖昧なところがなく明快であるか

そして、まとめられた製品コンセプトを次の観点から検討し、有望な製品コンセプトに絞り込んでいきます。新製品コンセプトの検討ポイントは次の通りです。

  1. 表現されたコンセプトは明確で信頼できるものか
  2. この製品を誰が、どのくらいの頻度で使うか
  3. 新製品はターゲット顧客の問題を解決し、ニーズを満たしているか
  4. このニーズを満たし、ターゲット顧客を満足させる製品は他にあるか
  5. 製品の提供する価値に対し、価格は妥当か
  6. ターゲット顧客はこの製品を買うか、買わないか

2)第2ステージ:戦略検討

製品コンセプトを基に、マーケティング戦略を検討していきます。市場投入のためのマーケティング戦略策定の視点は次の通りです。

市場投入のためのマーケティング戦略策定の視点

マーケティング戦略は、自社の生産能力などを勘案しながら、年度別の目標販売数量を3段階で検討します。特に、販売チャネルの構築、プロモーション戦略などは詳細にまとめ、具体的なアクションプランとプラン実行に要する人員・費用を検討していきます。

次にマーケティング戦略を参考にしながら、収益性、投資回収率(ROI)、自社既存製品の販売への影響度など、事業性の分析を行います。この段階で事業性が低いと判断したら、第1ステージの製品コンセプト開発まで戻り、再度魅力ある新製品コンセプトを探索します。

マーケティング戦略、事業性分析が完了した後は、製品開発並びにマーケティング活動に関する実行計画(ロードマップ)の検討を進めます。ロードマップの策定においては必ずマイルストーン(中間的な目安)を設定し、計画の進捗チェックを行えるようにしておく必要があります。また、開発計画は必ずマーケティング戦略と連動している必要があります。それは、マーケティング戦略が不十分では、どれほど先進的な製品が開発できたとしても事業としては失敗する可能性が高いからです。

3)第3ステージ:製品化

製品開発を実施するステージです。新製品の場合、市場の反応を検討する必要があるので、最初にテスト・マーケティング用の製品を開発し、限定された顧客グループや地域に試験的に市場投入します。そしてその結果を製品仕様に反映させ、本格投入用の製品へとブラッシュアップしていきます。

テスト・マーケティングの際に活用可能なマーケティング・リサーチ手法は次の通りです。

マーケティング・リサーチ手法

4)第4ステージ:市場投入

テスト・マーケティングの結果を踏まえた新製品を市場に投入します。ここまでの各ステージを確実にクリアした新製品であるため、その時点では、顧客に対して新たな価値を提供できる(顧客のニーズに応えることができる)ものであるはずです。しかし、実際に市場に投入した新製品に対する顧客の反応が当初の予想と異なり、販売数量などが計画を下回るようであれば、再度テスト・マーケティングなどを行う必要があります。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年3月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
日本情報マート

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