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経営革新に取り組むための組織・人事制度

競争力のある会社にしたい 2016年3月19日

革新に適した組織構造の検討手順

組織の革新を考える際に検討すべき重要なポイントは次の3つです。

  1. 革新の基本戦略に適した組織構造かどうか
  2. 革新の実行に必要な経営資源が配分されているかどうか
  3. 革新推進上の責任と権限などのルールが明確にされているかどうか

革新は改善とは異なります。改善が現状の組織構造、業務手順をいかに効率的にムダなく運営していくかを主題とするのに対し、革新においては、既存の事業遂行方法、あるいは既存事業そのものを根本から見直し、企業を新たな姿にすることが強く求められます。企業が描くのは革新の基本戦略に基づいた企業の将来の理想像であり、実施するのはそれに向けての計画的かつ一貫した活動です。

現状の組織構造は、企業の歴史の中で自然発生的に積み上げられてきたものではないでしょうか。このような組織構造はこれまでの事業を推進していくのには適していても、企業が考える理想像を実現していくには適していない場合が多くあります。そのため、革新を実現するためにはどのような経営機能の構成が最適かを検討する必要があります。経営機能とは、営業部・製造部というような部門のことではありません。一連の企業活動を構成する、企業が保有している「事業上の機能・能力」を示します。

企業が顧客に価値を提供する上で、保有すべき経営機能のつながりを一般的にバリューチェーンと呼びます。経営機能のバリューチェーンの例は次の通りです。

経営機能のバリューチェーンの例

バリューチェーンは、「購買物流」「製造」「出荷物流」「販売・マーケティング」「サービス」という5つの主活動と「全般的管理(インフラストラクチャー)」「人事・労務管理」「技術開発」「調達活動」という4つの支援活動で示すのが一般的ですが、ここでは、「革新に適した組織構造」を検討するという観点から、図表1のバリューチェーンを用いて考えます。

3年後あるいは5年後を目標とした革新を達成するためには、経営機能のバリューチェーンの例で示したそれぞれの経営機能について基本方針を策定していかなければなりません。その上で、革新を実現させるためには各経営機能において、どの程度の水準を保持する必要があるかを定量的に検討し、現状とのギャップを把握していきます。

なお、全ての経営機能を自社で保有する必要はありません。業務提携やアウトソーシングなどによって外部から調達することも検討してみましょう。

例えば、自社の革新の基本方針が「市場開拓」である場合、3年後にはどのような技術(研究開発)に基づいて、どのような商品(商品開発)を、どれぐらいの目標売上高と顧客数で達成するか(仕入れ・調達、生産、マーケティング)を検討します。その際、成果主義人事制度の導入、顧客情報の有効活用方法などについても考えます。さらに、進捗状況を把握するにはどのような「連絡-報告体制」を採用するか(全体マネジメント)という点も考慮します。

経営機能革新の基本方針・着眼点並びに定量的指標の例は次の通りです。

経営機能革新の基本方針・着眼点並びに定量的指標の例

革新を達成するために将来的に必要となる経営機能の水準が明確になった場合、それが現状の経営資源、特に設備と人員で実現可能かどうかを考えます。そして、足りない経営資源は何か、それはいつまでに確保しておかなければならないかを明確にし、その実現の可能性を冷静に検討していきます。

必要となる経営機能の水準とその実現のために不可欠な経営資源を検討していくと、現状での組織構造では対応が難しいなどといった問題点が明らかになってきます。例えば、「現状では地域ごとの支社制を採用しているが、今後は事業分野ごとの事業部制にする必要があるかもしれない」「職務階層が多くなっているが、機動的に意思決定するためには階層を減らしてフラット(水平)な組織にする必要があるかもしれない」など、新たな組織構造のイメージが湧いてきます。重要なことは、必ず達成すべき目標とそれに必要な経営機能を基に、組織の在り方を検討することです。

組織運営のためのルール作りのポイント

新たな組織の姿が見えてきたら、その組織を運営するためのルールを考えなければなりません。具体的には次のような点を決定していきます。

  • どの経営機能を、どの部門に持たせるのか
  • 職務上の責任をどこまでにするか

さらに、企業の革新という新しい試みを行う場合、その進捗状況や発生している問題を部門間で共有する必要があります。共通認識を持つための場として、これまで以上に会議の持つ意義が重要となります。多くの企業で、経営会議、部門長会議、各部門の会議や課単位での会議など、いくつもの会議が開催されています。これらの会議を有効に機能させるために、それぞれの会議の目的と頻度、決定すべき事項などを明確にしなければなりません。

また、組織運営のルール作りにおいて見落としがちなのが企業風土です。権限や会議の在り方は経営側で検討していくことができます。しかし、実際にこれを運営するのは従業員です。業務上の指示命令は企業の公式のルールに基づいて経営側から発信することができますが、実際に業務を遂行する際に従業員が従うのは、企業風土に基づく「業務の進め方」です。革新の方向性とこの企業風土が合致していれば問題はありませんが、そうでない場合には、革新したはずの組織が停滞を引き起こしてしまう危険性があります。

このため、企業風土の革新が必要な場合は、経営者自らが革新の方向性とそれによって実現される将来像を従業員に対して発信し続けながら、一方では思い切った登用や報奨(場合によっては降格や減俸)などにより、「目に見える形」で意図的に変化を意識付ける必要があります。

革新に適した人事制度とは

1)中小企業の最大の資産はヒト

企業の成長と発展を実現する上で、企業が保有する工場や土地建物のような有形資産や、企業が築き上げてきたブランド・ノウハウに代表されるような無形資産はとても重要です。

しかし、これらを地道に築き上げてきた主体が何であるかを考えると、中小企業にとって最も重要な経営資源はヒト(従業員)であることが分かります。企業は「ヒト」という経営資源が生み出す価値に注目し、独自性発揮の源泉として捉えていく視点が必要でしょう。

2)中小企業が人事制度を変更する際の注意点

それでは中小企業が人事制度を変更する際は、どのような点に注意が必要になるのでしょうか。

日本企業に広く採用されている人事評価制度は「職能資格制度」です。これは、従業員が保有していると思われる職務遂行能力(つまり、特定のレベルの仕事を遂行可能な能力)を「職能要件表」などと呼ばれる、多数の従業員に適用できるような客観的かつ抽象的な基準としてまとめ、これに基づく評価で処遇を決定するものです。この職能資格制度で評価の対象となる能力は「~することができる(はずである)」という「保有能力」です。例えば、○○大学を卒業しているのだから、1年目でこれぐらいの仕事はできるだろう、あるいは当社で10年以上の経験があるのだから課長の仕事ができるだろうというような企業側の期待と、実際に業務遂行した成果との差を評価しているのです。

長期的に人材を育成していく場合にはこのような制度でよいかもしれません。しかし、保有能力への期待が必ずしも業績向上に直接結び付くとは限りません。

自社の業績向上に直結するのは仕事の成果です。「目標管理制度」とはこの点に焦点を当て、個々の従業員が設定した目標に対してどの程度の成果を実現したかに基づいて評価するものです。ただし、あまりに成果のみを追求する場合、次のような弊害が生じます。

  1. 自社が今求めている人材(=すぐ業績を上げる人材)ばかりが注目され、「将来業績を上げてくれる人材の育成」という中長期的な競争力強化について考えることができなくなってしまう
  2. 個々の従業員が計画する目標が企業全体の戦略とは整合性が取れていない。あるいは、容易に達成できる低い目標を意図的に設定する従業員が増加し、結果として個人の目標は達成されても、企業としての目標が達成されないケースが頻発する
  3. 結果を求めるあまり、従業員が個人主義になってしまい、職場でのチームプレーや情報の共有、部下あるいは後輩の指導など個人の成果に反映しない業務がおろそかになってしまう

目標管理制度あるいは成果主義は、企業の業績向上を追求するという観点では正しい面があるといえます。しかし、一方で、最終的な成果のみを追い求めるあまり、途中のプロセス、つまりどのように仕事を行ったかが軽視されてしまうと、前述したような弊害が発生します。

この業績向上という短期的な目標と、企業体質の強化あるいは人材の強化という中長期的な目標の橋渡しを人事制度面で行うのが「コンピテンシー」という評価軸です。コンピテンシーとは、高い業績を上げる人材に特有の行動特性を指します。成果とは能力を「発揮」し「行動」することで生まれてきます。つまり、「~している」「~する」という行動、すなわちコンピテンシーを評価の対象に加えることによって、結果として成果のみならず、そこに到達するまでのプロセスも評価することが可能となります。

これにより、成果主義が陥りがちな結果重視からの脱却を図ると同時に、高業績者が業績を上げる際の行動をモデルとすることで、効果的な人材育成を行うことが可能となります。

コンピテンシーを取り入れた人事制度構築の方法

コンピテンシーは目標管理制度と車の両輪の関係にあります。目標管理制度は企業の事業戦略に基づく業績目標を、各部門・各従業員に十分理解させた上で、個々の従業員から自身の目標を提示させ、その達成状況によって評価する制度です。

目標管理制度は、業績への責任を個々の従業員に持たせるという点で、革新を目指す企業に適しています。しかし、評価の対象が業績という最終的な成果であるため、途中の業務プロセスが軽視されてしまいます。また、新たな事業への取り組みなど、成果がすぐに表れてこない場合にはモチベーションの低下を引き起こしかねません。この問題点を、コンピテンシーを評価対象とすることで補完していくことが大切です。

目標管理制度に関しては、企業がその経営ビジョンや事業戦略から今年度目標とする業績を各部門並びに各担当者に分配することで業績目標として設定できます。一方、コンピテンシーは目指すべき高業績者という人材像の明確化と、育成・評価の対象とする行動(コンピテンシー)自体を設定する必要があります。

コンピテンシーの設定方法は2種類あります。

1)観察・分析型(厳密型)

社内で高業績を上げている従業員への面接、行動観察などを通じて、できる限り広く詳細に情報収集してコンピテンシーを抽出していく方法です。この場合、成果に直結している行動特性が確実に抽出されるという点がメリットです。一方、現時点で業績を上げている従業員が必ずしも将来必要とされる従業員とは限らない点や、面接や分析に費用と労力が掛かる点、そもそもモデルとなる高業績者がいなければ設定できないという点がデメリットです。

2)経営主導型(簡易型)

経営ビジョン並びに革新戦略から「自社が今後必要とする人材像」を職種・部門・階層ごとに明確にしていきます。そして、そのような人材が役割を果たすときに取るべき行動を想定し、それをコンピテンシーとしていきます。この方法を採用する場合には、次のような点がメリットとなります。

  • 企業の将来進むべき方向性に適した行動特性が設定可能となる
  • 高業績者の行動観察や分析が不要であるため、比較的低コストで設定できる

一方、設定したコンピテンシーが実際の成果に直結するか否かは運営してみなければ検証できないという点がデメリットです。

中小企業の場合、「そもそも高業績者が社内に存在しない」という問題があるかもしれません。そのため、中小企業が導入しやすいのは「経営主導型」といえるでしょう。

「経営主導型」の導入手順

1)経営ビジョンに基づく職種ごとの役割モデルを明確にする

企業の革新を進めるために「ヒト(従業員)を革新したい」と考える場合、最初に取り組むべきことは、自社がどのような方向に進もうとしているのかを「経営ビジョン」として明確に従業員に示すことです。

そして、その経営ビジョンを実現するために、経営者は各職種などで求められる役割は何であるのかという役割モデルを従業員に具体的に示さなければなりません。

2)各役割モデルに求められる具体的な行動を示す

次に、各役割モデルで求められる具体的な行動を示します。つまり、どの業務を、いつまでに、具体的にどう変えるのかを示す必要があります。これを怠れば、従業員は、自分が何をどう革新すればよいのか分からなくなってしまいます。従業員の革新は企業の革新と連動して実施されるべきものであり、経営者は企業の革新を実現するために必要な業務と行動とは何かを、明確に示す必要があります。

3)評価項目と評価結果は公正かつオープンに行う

従業員の革新とは、従業員の行動、あるいはその行動に至った考え方そのものを変えていきます。そのためには、それぞれの従業員が自身の役割モデルに応じた行動(企業から求められている役割)をどのように考え、どのように実行しているかということを公正に評価しなければなりません。また、どのような行動を、どのように評価するかを従業員に公表し、実際の評価結果をフィードバックする必要があります。このような業務遂行のプロセスに関する評価を公正かつオープンに行うことは、「指示されて業務を行う」状態から「自分で考えて業務を行う」状態に従業員を成長させ、自律的な人材への革新を促進するという効果があります。

4)キャリア・パスではなく、スペシャルティー・パス

中小企業において従業員の長期育成を考える際は、大企業のようなキャリア・パス(どのようなキャリアを積んで出世していくか)の考え方ではうまくいきません。むしろ、スペシャルティー・パスの考え方で、どのような専門性をどのような順序で習得していきたいか、職場においてどのような将来像を描こうとしているのかを従業員に自ら考えさせ、表明させるべきでしょう。そして、その実行を企業が制度としてサポートしていくことが、ロイヤルティーを持った人材を確保・育成していくための第一歩になるでしょう。

5)終わりに

企業の革新においては、従来の仕事の進め方などを根本から見直さなければならないこともあります。従業員にとっては、できればやりたくないというのが本音でしょう。経営者が革新の必要性についてあらゆる機会を見つけて粘り強く説明し続けることで、従業員は初めて理解し、革新へと動き、自身も変わっていきます。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年3月22日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
日本情報マート

中小企業の頼れる情報源として、経営者の意思決定をサポートするコンテンツを配信。 「開業収支」「業界動向」「朝礼スピーチ」など2000本を超えるコンテンツを有するほか、年間200件以上の市場調査も行っている。現在、50を超える金融機関に情報提供を行っている。

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