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2016年3月16日

利回りはどうなる?マイナス金利の仕組みと影響

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マイナス金利とは何か? その影響はどのようなものか?

よく、「金利はマイナスにはならない」といわれます。なぜなら、「お金を借りると利息がもらえる」というあべこべの経済に突入してしまうからです。しかし、欧州では2012年からマイナス金利を採用した国もありますし、日本でも2016年2月16日からマイナス金利政策がスタートしました。実際にマイナスになるのは、どの金利を指しているのでしょうか。またどのような影響があるかを考えてみましょう。

マイナス金利のイメージ

マイナス金利の対象は日銀当座預金

通常、金融機関は日本銀行にお金を預け入れています。なぜなら、「預金等の一定比率以上の金額を日本銀行に預け入れること」が義務づけられているからです。これを、「日銀当座預金」や「日銀当預」と呼んでいます。 「日銀当座預金」は、金融機関同士や日本銀行との決済に使われたり、現金通貨の支払い準備や準備預金として積み立てておく必要があります。

本来であれば、この日銀当座預金に金利はつきません。しかし、2008年11月以降、「法定準備預金額」を超える部分に対して、金利が付されています。現在、「超過準備額」に対して適用される金利は、0.1%です。なお、準備預金制度の対象となっている金融機関は、銀行、信用金庫(預金残高 1600億円超)、農林中央金庫です。

マイナス金利は日銀当座預金の約6%

2016年1月末の日銀当座預金残高を見てみましょう。準備預金の積み期間は1月16日から2月15日までの1カ月です。準備預金残高232兆2240億円に対して、所要準備額は8兆8180億円。この所要準備額を超える金額を超過準備額といい、223兆4060億円です。

超過準備額(単位:億円)

今回マイナス金利を導入したのはこの日銀当座預金が対象。とはいっても、預金残高の全額に対してではありません。具体的には日銀当座預金を次の3つに分けて、2月中旬以降に新たに積み上がる分(政策金利残高)に限られています。

  • 政策金利残高:利息を払う部分 マイナス0.1%
  • マクロ加算残高:利息のつかない部分 0%
  • 基礎残高:利息のつく部分 プラス0.1%

 

日銀当座預金残高の内訳

2016年1月29日の日銀の発表によると、取引先金融機関全体で、プラス0.1%の金利が適用される残高は、約210兆円。同年1月の残高は約232兆円ですから、このうちの約210兆円は従来どおり0.1%の利息が受け取れますし、所要準備額の約8.8兆円はそもそも無利子です。差し引き約13.4兆円について、マイナス金利が適用される仕組み。

232兆2240億円-210兆円-8兆8180億円=13兆4060億円

このようにマイナス金利政策が導入されたといっても、これまで預けたほぼ全額には金利がつきますから、図表3のように金融機関が金利を支払うという段階ではありません。しかし、金融機関の減益は避けられないでしょう。本来であれば、日銀当座預金自体に金利がつくということ自体、自然なことではなく、結局は、間接的に納税者が負担しているのでしょう。

企業への影響

金利がマイナスになると企業は借り手という立場ですから、低金利での資金調達が可能になります。マイナス金利が導入される前と比べて、社債を発行するなど、長期での調達も多くなっているようです。お金を借りて、金利をもらえるケースは滅多にないように思いますが、実際に金利がマイナスになったケースも存在します。2016年2月13日付の日本経済新聞には、「GLP投資法人が野村証券と契約した53億円の金利スワップにおいて、実質的に0.009%もらえる計算になる」と掲載されていました。

このように資金調達はしやすくなる一方で、受取利息は減っていきます。そのため、「銀行で寝かせているお金」を含め、経営者としては財務戦略を見直すチャンスともいえます。例えば、自社株買いを行うことも考えられます。負債の資本コストである金利は低くなった半面、株式における資本コストは割高感が増します。

また、企業にとって有利子負債が多くなると、ROE(株主資本利益率)が向上します。本来であれば、利益を増やすことで、ROEを高くするのが理想ではありますが、借り入れや自社株買いによってこのような影響も生じます。

一方、退職金制度がある企業では注意が必要です。退職一時金や年金は、従業員に支払うことを約束した債務です。退職給付会計の導入以降、貸借対照表の負債の部に退職給付引当金を計上しなければなりません。いわば、将来払う退職金という負債を、時価評価するわけです。

負債を時価評価する際、金利の影響を大きく受けます。退職給付債務は、将来支払う退職金をあらかじめ見積もって、現在価値に割り引いて計算をしています。割引率には、安全性の高い債券の利回りを基礎として決定することになっています。つまり国債等の金利が用いられます。

金利がプラスであれば、割引率もプラスなので、現時点で準備しておく金額(退職給付債務)は少なくてすみます。ところが、割引率がマイナスとなった場合は、より多くの退職給付債務が発生してしまいます。将来の退職金の準備不足から、退職給付債務が増えて、企業の利益を圧迫することになるでしょう。

個人への影響

金利がマイナスになると、私たちの生活にとってもプラスの面とマイナスの面があります。プラスの面はローン金利の低下です。住宅ローンの借り換えはこの2月、前年同月比2.5倍になっています。さらに3月は、住宅金融支援機構のフラット35における貸出金利が、史上最低を更新しました。返済期間20年以下の場合、最も多い適用金利が1.02%です。個人が住宅ローン控除を受ける場合、10年間にわたってほぼ無利子でローンを組むことも可能になるかもしれません。

デンマークには住宅ローンを組むと反対にマイナス金利のローンが存在すると報道されていますが、金利がもらえるわけではありません、なぜなら、ローンを組むときの手数料のほうが高いというのが実情だからです。金利がマイナスになることで、従来の手数料が割引にはなりますが、金利をもらうことはできないのです。

さらにこの住宅ローンは変動金利の商品。将来金利が上昇すると、当然ながら適用金利も上昇します。マイナス金利だと住宅ローン金利が下がって有利になるというのは、全期間固定ローンに限ってのことであり、永遠にマイナス金利のローンは存在しません。

一方、債券や預金の金利、そして生命保険の運用利回りが低下しています。早期償還が決定した投資信託も多く存在しますし、生命保険各社は終身保険や個人年金保険など貯蓄型商品の販売の取りやめが続いています。マイナス金利で国債の利回りが低下したため、約束した運用利回りを得ることが困難になってきたからでしょう。予定利率の低下から、今後は学資保険の保険料も高くなっていくに違いありません。

最も気になるのは預金金利ではないでしょうか。しかし、預金金利がマイナスになることはなさそうです。日銀の黒田総裁は2016年2月18日、参院財政金融委員会にて、「預金金利がマイナスになる可能性はない」との認識を繰り返しました。ただし、民間銀行がマイナス金利政策の影響で減少する金利収入を補うために、ATMの利用手数料などを引き上げる可能性もあり得るとの見解を示しています。

マイナス金利の発表から約1カ月半。長期金利もマイナス0.1%と急激に低下しています。今後はボラティリティー(変動性)の高い展開になりそうです。

以上

※上記内容は、本文中に特別なことわりがない限り、2016年3月13日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
横川 由理(よこかわ ゆり)

横川由理

CFP、証券アナリスト協会検定会員 MBA(会計&ファイナンス)
生命保険会社での勤務をきっかけに、お金の知識の大切さに気がつく。
以来、お金の知識や情報をお伝えすることをライフワークとして、FP資格取得講座、マネーセミナー、書籍、雑誌などを中心に活動中。
おもな著書に「老後にいくら必要か?」、「アベノミクスで変わる暮らしのお金○と×」「よい保険・悪い保険」宝島社など多数。

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