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健康経営で注目される生産性指標「アブセンティーイズム」と「プレゼンティーイズム」とは?

旬な話題を知りたい 2021年8月30日

従業員の健康管理はこれまで「コスト」として捉えられていました。しかし、少子高齢化による労働人口の削減を受け、経営戦略として従業員の健康促進を「投資」と捉える取り組みである「健康経営」が進められています。

健康経営は、従業員のパフォーマンスを向上し生産性を上げる他、SDGsのゴール3「すべての人に健康と福祉を」の達成にもつながります。しかし、健康経営の取り組みは実行した施策に目が向きがちで、その施策から生まれた「成果」について、どのように検証すればよいのか分からない経営者の方も多いのではないでしょうか。

健康経営の成果を数値で「見える化」し、社内外のステークホルダーに説明ができるようになることで、投資家からの出資をはじめとした金融アクセスの向上も見込まれます。

本記事では、健康経営で注目されている生産性指標である「アブセンティーイズム」と「プレゼンティーイズム」を解説するとともに、その算出方法や活用について解説します。

「アブセンティーイズム」と「プレゼンティーイズム」とは

「アブセンティーイズム(absenteeism)」とは、

健康上の理由による病欠や、病気休業をしていること

です。例えば、メンタルヘルスの不調により長期間休んでいる状態などが当てはまります。

アブセンティーイズムは、従業員が病気により欠勤しているという目に見える状態であることから、生産性の低下を引き起こす要因として以前から問題視されており、予防と対策の中心にありました。

一方の「プレゼンティーイズム(presenteeism)」とは、

何らかの疾患や症状を抱えながら出勤し、体調不良がある状態のまま働いていること

です。出社はしているものの体調が優れず、生産性が低下している状態を指します。

近年では、出社はしているものの本来のパフォーマンスを発揮できていないプレゼンティーイズムのほうが、組織全体としての損失が大きいとして注目されています。

特に、経営資源が限られ少人数で業務に当たっている中小企業において、1人でも従業員のパフォーマンスが最大限発揮されていないことは、経営者にとっても好ましい状態ではないでしょう。

プレゼンティーイズムの原因となる病気・症状

プレゼンティーイズムの原因となる病気・症状には、次のようなものが挙げられます。

  • 運動器・感覚器障害
  • メンタルヘルスの不調
  • 心身症
  • 生活習慣病
  • 感染症・アレルギー
  • 月経・月経前症候群
  • VDT症候群、眼精疲労
  • 頭痛(偏頭痛など)
  • 首や肩の凝り、腰痛
  • 花粉症

これらの症状のうち、最近注目されているのが月経・月経前症候群です。経済産業省によると、女性特有の月経随伴症状(月経に伴う体調不良)による労働損失は4911億円と試算されています(注)。日本の全従業員のうち約44%が女性であり、自社のプレゼンティーイズムの改善には、女性特有の健康課題に対する取り組みも不可欠でしょう。

(注)経済産業省「「健康経営における女性の健康の取り組みについて」

とはいえ、女性特有の健康課題に企業として取り組むのは、なかなかハードルが高いと感じる人も多いでしょう。女性社員が元気に働ける職場づくりのポイントを、次の記事でまとめています。ぜひご覧ください。

■女性社員の健康課題をサポートし、健康経営をさらに推進!■
https://www.ganbarusite-daido.jp/report/personnel/bp300053/

プレゼンティーイズムが発生する背景と要因

1)日本人の国民性がプレゼンティーイズムを引き起こしていた?

これまでの日本の職場では、多少の体調不良で休むことははばかられ、多くの従業員が出社を選択するという風潮がありました。これが、プレゼンティーイズムが発生する主な背景といわれています。

新型コロナウイルス感染症の拡大により、感染予防として体調不良時は出社を抑制する動きが出てきてはいますが、勤勉な国民性から、体調不良でも在宅勤務で仕事に従事しているケースも考えられます。また、在宅勤務による環境の変化などが、新たな体調不良の要因になったりもしています。

2)個人要因と職場要因

体調不調にもかかわらず出社してしまう要因には、大きく分けて「個人要因」「職場要因」があります。

●個人要因
「収入が少ない」といった金銭的な側面や、「扶養家族がいる」といった家族構成の側面があります。また、「責任感が強い」といった個人の性格からくるものや、すでに病気で何回も休んでいて立場が弱くなってしまうことも挙げられます。

●職場要因
「営業目標を達成できていないから休みづらい」といった職場の風土や雰囲気によるものの他、「この業務は私しか担当していないから、休むと誰もできない」といった、業務の代替者がいないことも挙げられます。

職場要因については、マニュアルを整備して業務プロセスの標準化を図っておく他、業務が特定の従業員に偏らないよう、多能工化を日ごろから進めることが有効です。これは、健康経営の観点からだけではなく、BCP(事業継続計画)の観点からも有益といわれます。

プレゼンティーイズムの測定方法

プレゼンティーイズムは、従業員が出社していることから目に見えづらく、どれくらい労働損失が生まれているのか分かりにくいものです。そこで、経済産業省が発行している「企業の『健康経営』ガイドブック」では、5つの測定方法が推奨されています。

その中で、健康経営推進の観点からは、質問数が1問で毎月測定を実施する「東大1項目版」が最も適しているといわれます。

プレゼンティーイズムによる労働生産性損失の計算式

プレゼンティーイズムによる労働生産性損失は、次のような計算式で算出します。ここでは、前述の東大1項目版を使って計算してみましょう。

【東大1項目版(質問)】
病気やけががないときに発揮できる仕事の出来を100%として、過去4週間の自身の仕事を評価してください。
[      ]% (1%から100%)

【労働生産性損失額(プレゼンティーズムコスト)の算出方法】

プレゼンティーズム損失割合(100%-上記質問の回答値(%))×総報酬年額(標準報酬月額12カ月+標準賞与)=労働生産性損失額(プレゼンティーイズムコスト)

自社のプレゼンティーイズムを把握することで、健康経営を促進するための施策が、従業員の生産性向上の観点でどの程度の効果があったのか、金銭的に評価することができます。

ESG投資の世界では、こうした「非財務情報」こそが、中長期的な企業の成長や持続可能性を評価するために重視されてきています。自社の健康経営への取り組みや成果を、金銭的な評価や数値で明確に示すことで、社内外のステークホルダーに対し定性・定量双方の「見える化」が可能になるのです。

プレゼンティーイズムを改善するメリット

プレゼンティーイズムを改善することで、次のようなメリットが生まれます。

1)医療費・保険費の削減

従業員が病気になる前、「未病」の状態から改善を図ることで、医療費・保険費を削減することができます。特に少子高齢化による医療費の増加に伴い、健康保険組合の財政状況は逼迫しています。健康保険組合の財政のためにも、プレゼンティーイズムの改善は必要不可欠なのです。

2)企業全体の労働生産性の向上

従業員のパフォーマンスが上がることで、企業全体の労働生産性の向上を図ることができます。中小企業は少人数で業務をこなす必要があるため、一人ひとりの労働生産性を上げることで、より高い利益を生み出すことができます。

3)従業員の定着率の上昇

プレゼンティーイズムの改善により、従業員の定着率が向上し、企業ブランドのイメージアップにつながります。併せて、プレゼンティーイズムの低下から起こる事故・不祥事などを防止するリスクマネジメントにもなります。

4)自社の労働価値に合った人材の採用

例えば、営業や工場勤務といった、従業員の仕事内容によっても健康上の課題は異なります。自社のプレゼンティーイズムを検証し、改善を図ることで、自社の労働環境に即した人材像の明確化にもつながります。
「従業員を資産と捉え、健康経営を推進している会社」として、企業イメージのアップにもつながり、人材採用市場での差異化要因にもなります。

プレゼンティーイズムを解消するための課題の抽出、効果的な健康施策のポイントについては、次の記事で詳しく解説しています。

■中小企業の健康経営の肝!社員の「体調不良」を解消しよう■
https://www.ganbarusite-daido.jp/report/personnel/ba300039/

健康経営は投資。成果を見える化するための生産性指標を

健康経営は、単に「従業員に優しい会社になる」ことを目的として取り組むものではありません。健康経営は人材をコストではなく「資源」と捉え、生産性を最大限発揮させるための「投資」なのです。

しかし、健康経営の取り組みの成果は、まだしっかりと計測されていないともいえます。社内外のステークホルダーへ健康経営の取り組みを説明するためには、健康経営に投資した成果(アウトカム)を計測することが必要です。そのためには、まず自社のアブセンティーイズムとプレゼンティーイズムは何か、現状を分析することから始めましょう。

以上

※上記内容は、本文中に特別な断りがない限り、2021年7月29日時点のものであり、将来変更される可能性があります。

執筆者
日本情報マート

中小企業の頼れる情報源として、経営者の意思決定をサポートするコンテンツを配信。 「開業収支」「業界動向」「朝礼スピーチ」など2000本を超えるコンテンツを有するほか、年間200件以上の市場調査も行っている。現在、50を超える金融機関に情報提供を行っている。

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